三井長編 続編・番外編
□Lingerie
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仙道から土産をもらったとは聞いていた。
遠征などでなく、完全にプライベートでパリに行ってきたそうだ。一緒に開けるよう念を押されたらしく、まだ中身は見ていないと三井は言う。
「子供だましみてえな仕掛けでも入ってんのかもな」と渡されたのは20cm四方の箱。きれいにリボンが掛けられ、チョコレートでも入っていそうだが、思ったよりも軽い。
「コーヒーや紅茶かな」
「ならあんなもったいぶった事言わねえだろ。仙道だぜ? 信用ならねえ」
信用できないのに、言われた通り忠実に一緒に開けるまで取って置くところが三井らしい。
箱を開ける時は、思わず警戒して薄目で見てしまう。だが何かが飛び出してくるようなことはなく、むしろ一見、慎ましやかに収まっているのは黒いレースのハンカチのように見える。広げてみてわかった。
「あっ……」
「マジ……かよ」
総レースのベビードールのセット。
ひらひらとしなやかに揺れ、向こう側が余裕で透けて見える。極小のショーツのサイドは紐状だ。
「すげえな……」
「さすがおフランス」
「まったく仙道のやつ、何考えてんだか」
「何って、寿と同じことでしょ」
「あのヤらしい男と一緒にすんな」
とは言うものの、裾をぴらりと持ち上げてみたり、手触りを確かめたりと興味津々のご様子。下着の意味ねえなと呆れたように、しかし、ニヤリと笑いかけてきた。そうすると不敵に口角が上がり、挑発的で自信たっぷりの顔になる。それでいて、視線は催促と懇願を伴って自分に向かってくるのを感じる。これは彼の常套手段だ。
「せっかくの土産だしな」
「………」
「ヤツの好意を無駄にするのも悪ぃだろ」
だが、いつもの手口だとわかっていても、受け入れてしまう自分はなんだかんだ三井に甘い。
「先に言っとくけど」
紫帆は言った。
「着てみるだけだからね」
「試着ぐらいはしてみねーとな」
渡された箱の底には、さらに細長い帯状の同生地の布が入っていた。
「リボン? にしては長いような」
「目隠しだろ。それか手を縛る用じゃね?」
「……そういうことは良く知ってんだから」
皮肉を込めて言ったのに、相変わらず三井は楽しそう。風呂に入ってる間に着替えろと言わんばかりに、浴室に行ってしまった。
それにしても、着てみるとは言ったけれど、露出度の高さには戸惑う。レースブラに施されたボタニカル刺繍が、かろうじてトップを隠しているものの、胸の曲線は隠しようもない。上品な透け感のドレープが腰から尻周りを揺れ、その下のショーツを煽情的に彩る。これは脱がされるためのランジェリーだ。
羞恥心に居たたまれなくなる。だがその一方で、三井がどんなリアクションをするか知りたくもあった。いつもと違う夜になるかもしれない。
紫帆は部屋の明かりを落とすと、静かにベッドの中に入り、ブランケットを引き上げた。