藤真長編U

□conte 21
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冬の陽は赤く、落ちるのも早い。軽いメニューを選んで練習に参加した藤真は、いつもならこのあと自主練といくところだが、さすがに止めておくことにした。

やり足りなさも手伝ってか、すっきりしない気分のままでその歩みは重い。空虚なため息ばかり出る。気持ちを切り替えるつもりでロッカールームのドアを勢いよく開けたところ、中から2つ上の先輩の切羽詰まった声が耳に飛び込んできた。

「オレは別れたくない! 何でだよ……」

明らかにマズいタイミングだ。引き返そうとしたが、「今から行くから」と電話を切った先輩と目が合ってしまった。

「すいません」
「や……こっちこそ。あ、おまえ…病み上がりなんだから、気にせず着替えてくれよ」

そう言われては遠慮するにもしづらくなり、藤真は自分のロッカーに手をかけた。少し重苦しい空気が流れる中、先輩はコートに腕を通しながら「かっこ悪いとこ、見せちまったな……」とポツリと呟いた。

「オレ、これから振られにいくのかもしれねぇ。藤真は……女に振られたことなんかねえんだろうな……」と深くため息をついてから、今のは少し僻みっぽかったかと思い当たったのか「ごめん。後輩に愚痴ったりして余計にかっこわりー」と苦笑いした。

「そんなことないですよ」
「はは、いいって、気ぃ遣うなって」
「ほんとっす。それにオレも……肝心な女には逃げられそうっつうか、逃げられたというか……」

マジ?おまえが?と驚いた顔をする先輩だが、藤真の言葉にいくぶん慰められたようで、「なるようにしか、ならねえよな」と自嘲的な笑みを残して出て行った。

そして、それと入れ替わるように、矢野がやってきた。感傷に浸る暇もない。
「そういえば、茉莉子、今日休みだってよ。おまえ風邪うつしたんだろー」などとのん気なことを言ってくる。乱れた髪をかき上げながら、藤真は振り向いた。

「何もしてねえよ」

そう言ってから、ふと自分の足元に目を落とし、「いや、それウソ。茉莉子に告白した。したつもりなんだけど」と言い直した。

「へ!? こ……告白?」

矢野の声が裏返り滑稽に響く。無理もない、今のも想定外の“告白”なのだから。
ふたりが急接近しているのは気が付いていた。茉莉子が試合にこないと藤真が物足りなさそうにしていたのは間違いないし、第ニ外国語の宿題やらは、他に仏語科の友人がいても必ず茉莉子に聞いていたことから考えて、 彼女を『特別』としていることに確信に近いものを抱いていた。
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