藤真長編U

□conte 22
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考えれば考えるほどわからなくなる。しかも今は少人数の会話の講義中。気を抜いているとどんどんあてられる。茉莉子は授業に意識を集中しようとするが、まったく身が入らない。
だがRの発音は褒められた。ため息まじりの張りのない発声が、かえってそれらしく響いたようだ。

考えるといっても、どんな順序で何があったかは、もつれた糸のように手繰り寄せそうとすればするほど絡み合ってしまい、結局は途中から諦めて、あれは自分の勘違いなのだと思い始めたところ。泣いてしまったりしたから……おかしなことになったのだと。

藤真は友情に似た感情の延長線で言ったのだ。そう思えるほど親しくなっていたという自負はある。“告白”と言ったのは彼の戯れ言にすぎない。なのに自分が泣いたりするから――


講義が終わっても相変わらず気持ちの晴れぬまま、最後にのろのろと教室をあとにした。建物を出ると弱い光の日が落ちかけており、空は慌ただしく寒々しい夜の準備に入っていく。
ため息は白く変わり、そのさまをぼんやりと見ていると、背後に人の気配を感じた。振り返ると、今の講義の教授が立っていた。

フランス人のその教授は、茉莉子の驚いた目を楽しむように見下ろすと、「フランス語はアンニュイな言葉だと言われる。今のアナタはまさに“アンニュイ”そのものだね」と、少し皮肉も含んだことを言った。

「……すみません」
「発音はそのまま、次回はもっと元気に来るように」

そんなことを言われていると、すぐ向かいの建物からちょうど藤真が出てきた。ハッとした茉莉子の視線を追った教授に、「友達か?」と尋ねられた。
それに頷けば、私も彼を知っているよ、と藤真を手招きするではないか。彼もギョッとしつつも、無視するわけにいかずこちらにやってきた。

「Monsieurフジマ、3位おめでとう。と言ってもキミは満足していないようだ」
「……そうですね」
「キミはトニーパーカーに似ている。強気なゲームメイク、スピード、点のとれるポイントガード。試合が楽しみだ。では、キミも来週の講義で」

言いたいことだけ言って、教授は去っていった。あとに茉莉子と藤真を残して。どうしてくれる、この状況……と茉莉子は途方に暮れていると、藤真が口を開いた。

「トニーパーカーって、フランス出身のNBA選手なんだよ。でもトニーはスリーポイント苦手だけど、オレはきっちり入れるぜ? ムッシュフジマ? それに何だよ、あいつ、日本語ペラペラじゃん。いつもフランス語しかしゃべってくんねーから、出来ねえんだと思ってた。やべーな、こっちの会話筒抜けだったのか」
「4か国語話せるらしいよ。英語はもちろん、あとスペイン語だって」

それを聞いてマジかよと嫌そうな顔をした藤真に茉莉子は微笑んだ。だが、その笑顔は妙に痛々しく、他人行儀でやるせないものだった。
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