藤真長編U

□conte 24
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和室といっても、琉球畳に間接照明の柔らかな光がしのぶモダンな作りをしており、たまの来客用として使うだけの部屋。
そこで藤真とふたりきりというこの状況は、自分の家とはいえ身の置き場がないというか……何とも居心地が悪い。

外はもうすっかり日が落ちている。茉莉子は木製のブラインドをゆっくり下ろした。時間稼ぎにもならない。たよりなさそうに視線をうつろわせていたが、「電話くれれば良かったのに……」と言いながら藤真の正面に座った。

「そうしたらまた逃げるだろ?」

そう言って、藤真はしっかりと茉莉子を見すえてきた。言葉が返せなかった。

何事もなかったかのように装いつつも、藤真を避けていたことは認めざるをえない。藤真の真っ直ぐすぎる目が怖くなって、微笑ではぐらかしながら何も言えずにいると、「茉莉子に言わなくちゃいけないことがある」と彼はためらいなく切り出してきた。

怖い。聞きたくないと言いたい。だが、藤真の声には相手の抗弁を許さぬ響きがある。

「な……に…?」

落ち着かなければと自分に言い聞かせていたのだが、声は勝手に乱れた。

「オレ、好きなんだ、茉莉子が」

藤真ははっきりと言い切った。弛みなく注がれる視線は相変わらず茉莉子をとらえて離さない。そしてそれは、茉莉子が驚きの表情ののち一瞬だが眉根を寄せ、悲しそうな顔をしたのを見逃さなかった。
そう、その言葉は茉莉子の気持ちを袋小路まで追い詰めるほど熾烈だった。

「それ…って……。だって……」
「だって、何だよ?」
「…何って、…それは……」
「言えよ。 言えって」

茉莉子は唇をふるわせ返答をためらう様子だったが、藤真の穏やかだが真剣な顔に、とにかく従うしかなかった。
小手先の言い逃れは通用しない。藤真がはっきりと「好きだ」と言ったことで、もはや退路は断たれていた。
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