藤真長編U

□conte 28
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「ねえ、やっぱり交換しよ」
「オレ、こっちのがいい。癒されそうじゃん」

クリスマスパーティーの最後の抽選会で当たったのは、茉莉子が『腹筋ローラー』で藤真が『苔玉』だった。所詮どちらも末等のもの。しかしそのミスマッチに周囲は失笑した。
それに、「オレ、それ必要ねえぐらいのもん持ってるから」などと言われれば、茉莉子は反論できない。


そうこうしているうちにいつもの駅にふたりは降り立った。もうすぐ22時になろうとする時間。二次会に流れた連中もいたが、それにはのらず、暗黙の了解でここまできた。今まではそのまま藤真が茉莉子を家まで送るのが常だったが。

「1時間ぐらいうちに寄っていけるか? 渡したいものがある」と藤真は優しく茉莉子を見下ろして口にした。
「うん……私も」
そう茉莉子もポツリと答えた。


藤真がコーヒーを淹れてくれている間、茉莉子は手持ち無沙汰に座っていたが、ふと思い出し、例の腹筋ローラーを出してみた。夜中の通販番組で見たことがある。金髪の外人女性のトレーナーが、軽々とやって見せていた。継続することに意味があるらしい。

藤真も「テレビで見たことあるな」と言って、手にとった。
四つん這いになり両膝をつき、床に置いたローラーのグリップを握り、それを前方に滑らせる。限界まで前に出したら、また引き戻す、その繰り返し。3回ほどやると、「けっこう効く」とシャツの上から腹筋を確かめるように手をあてた。

「1,000円ぐらいだろ? かなり優秀だな」
「へえ、そんなもんなんだ」

値段を聞いて、茉莉子は油断した。それに目の前でいとも容易くやってのけられて、勘違いした。茉莉子も軽い気持ちで試してみれば………
見る影もなくペシャっとつぶれた。踏ん張る間もなかったのではないだろうか。

藤真はコーヒーを吹き出しそうになった。いや、実際、むせて咳込んだ。不意をつく、あまりのかわいらしい有様に呆気にとられてしまった。まったくいきなり何をしてくれるんだ――


「何これ! え、なんで?」

茉莉子がローラーを引き戻そうとしても、イメージ通りに出来る気配がない。

「笑わないでよ。騙された気がする」と頬を紅潮させて、起き上がろうとする茉莉子に手を差し伸べてやりたかったが、今の彼女に触れたらそのまま押し倒してしまいそうな自分がいる。
藤真はテーブルに肘をつき額に手をあて、見てられねえといった風を装い、「そのカッコだからじゃねえの?」とごまかした。
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