藤真長編U

□conte 30
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元日は父方の祖父母の家で親族が集まるのが毎年の恒例。藤真が家族を優先しろというので、試合は見に行かず、そちらに顔を出してきた。

昔は従兄弟たちと遊べて楽しかったのだが、今となっては受験生だったり仕事だったりで、孫世代は自分ともうひとりだけ。だがその彼女も帰ると言うから、茉莉子も便乗して帰ることにした。このまま親たちの宴会に付き合わされてはかなわない。

駅からの帰り道、試合結果を確認した。やはりプロチームが勝ち進んだようだ。これで藤真は明日からオフ確定となった。


家でひとり寛いでいると、電話が掛かってきた。母からだった。泊まっていくことになったから、戸締り気を付けなさいと。
「はーい」と返事だけ軽快に返し、邪魔が入らないのをいいことにゆっくり半身浴でも、と温めのお風呂をわかした。誰にも気兼ねせず自由気まま、こんな機会はなかなかない。

マッサージをしながら、パックをしながら……いつもより少し入念な自分に、何を気合い入れてんだと心の中で突っ込みつつ、挙句には本を持ち込みのんびりと浸かること30分以上。出てからも鏡の前でさらにスキンケアに励んでいると、再び着信音が茉莉子の耳に届いた。

「今、大丈夫か?」

藤真だった。まだ打ち上げでもしているのだろうと思っていたから、思いのほか早い電話に驚いた。

「平気だよ、もう家だから」
「じゃ、ちょっと出れるか? 近くまで行ったら連絡するから」
「うん。 あ、でも……」との茉莉子の声は届かぬまま通話は切れてしまった。

藤真こそどこにいるのか、あとどのくらいで来るというのか。でも決断も行動も何かと早い藤真のことだ、ためらっている場合ではない。
Tシャツの上にパーカーを羽織り、取るものも取りあえず何とか体裁を整えるべく、茉莉子も慌ただしく動き出した。
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