藤真長編U

□conte 31
1ページ/2ページ



室内はまだわずかに暖を残していた。さきほど出てから1時間もたっていない。再びエアコンをつけてから、藤真は着ていたダウンを脱ぐと、気を静めるようにふうーと肩で大きく息をした。

真冬の寒さが少しはこのほとぼりを冷ましてくれるかと思ったが、しっかりと繋がれた茉莉子の手の温かさに、それを肌で全身で直接感じたいとの望みは深まるばかり。そんな心急く自分を悟られないよう、今日の試合の報告をしながら、彼女のペースに合わせて歩いてきた。

「寒くなかった?」

茉莉子がコートをかけたハンガーを、半ば取り上げるように脇のフックにかけると、軽く頭を自分の胸に引き寄せた。

「うん……大丈夫」

そう言って自分の身に寄せられた茉莉子の身体を、藤真は強く抱き返した。
自宅でくつろいでいたところを、寒空の中、連れ出してしまった。本来ならば明日ゆっくりと一緒に過ごし、じっくり理解を深め合って、その後に起こりうることだと思っていたのだが、なんせ両親不在、風呂上りとさまざまな条件が都合のいいように揃ってしまったわけで。

かといって、彼女に触れたいだけではない。そういう男としてのどうしようもない欲望も否定はしないが……いったいどうすれば―― この湧き上がってくるとめどない感情を伝えることができるのか。そして今や、その手段はこれしか思いつかない。


茉莉子をベッドに寝かせると、そっと何度か唇をなぞり確認するようにキスをした。その気遣うような優しさに彼女はホッとしたようだが、静かに見下ろしてくる目にはらんだ熱情に気付いたらしく、驚いた顔をした。そんな茉莉子の目の前で、藤真は服を脱ぎ捨て上半身を晒す。

再び緩やかに口づけると、茉莉子の胸元のファスナーに手をかけ、ゆっくりと引き下ろした。そしてまたキス。パーカーの前を左右に開くと、首筋へまた。肩からはずして脱がすと、鎖骨に唇を寄せる。ひとつひとつ進めるたびに、藤真は抜かりなく丹念にキスを落とす。

まだボディーソープの香りを残す彼女の肌は瑞々しい。そこに覆い被さり合わせれば、それだけで心地よさが背骨を走った。

胸元に手を伸ばせば、茉莉子の呼吸は深くなり、ため息ともつかぬ吐息がこぼれた。恥じらい耐える様子が健気で愛しい。そんな彼女に煽られている自分は、既に込み上げてくるものが一点に集まり熱を持ち始めている。まだ待てよ、というほうが無理な話だ。


「…ふ…じま…く……」 

時折、茉莉子が自分を呼ぶ声は小さくかすれ、ほとんど聞き取れない。
もっと聞きたい―― でもキスもしたいと、結局その口を封じるように捉えて舌を絡ませる。その繰り返しで埒があかない。
自分はもっと自己抑制ができると思っていたのだが……そうでもなかったらしい。残念だ。

首に回された茉莉子の腕が、自分をキュッと引き寄せたり、時には抵抗するように胸を押し返してきたり。きっと無意識なのだろう。だがそうやってなぞられる度に気持ちが昂る。
これは……思ったほど自分がもたないかもしれない。少々心許なく、何とも不本意だ。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ