藤真長編U
□conte 33
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『Le chocolat bleu』と銘の入ったチョコレートの空き箱。茉莉子が開けようとした時である。藤真の手がそれより一瞬早く伸びてきて、箱をつかみとった。
「きれいだからとっといただけ……」
「何か入ってたよ?」
「別に。たいしたもんじゃない」と言ったにもかかわらず、動揺がわかりやすく彼のクセとして表れた。左手で髪をかきあげる、これは彼がごまかそうとするときにする仕草だ。
「ならいいけど」
そう言いつつも茉莉子は怪訝そうに首をかしげ藤真を見上げた。藤真としては、「見せて!」と騒がれるより、そんな疑わしげな目で見られるほうがよっぽど耐えがたい。
「何だよ……また変な勘違いしてんだろ……」
「しちゃうかもしれないよ?」
「……オレを脅す気か?」
茉莉子はニコリとした。「しょうがねえな……」と藤真は箱をそのまま渡した。
入っていたのは写真だった。年末に片づけていたら出てきたものだとか。中には制服姿のものも混じっていた。ほんの少しばかりあどけなさの残る高校時代の藤真。
茉莉子が写真を見たいと言ったら「ない」と即答だったのに。だからきまり悪くて隠そうとしたのだろう。
だが、珍しく藤真が慌てた理由はそれだけではなかった――
「高校の時もユニフォームは緑だったんだね」
「ああ」
「ほんとだー。摩天楼軍団、背、高すぎっ」
「そうか?」
嬉々として写真に見入る茉莉子と対称的に、藤真に諦めの表情が滲んでいく。次の瞬間、「えっ……」と茉莉子が固まった。
「え!? 藤真くん……?」
どれを見て茉莉子が驚いているのか、確認するまでもない。だから見せたくなかった。
「似合わねーって言うんだろ?」
「それ以前にどうしたの!?っていうのが正直な感想だよ……」
「いや、何か変えなきゃいけねえってことで手始めに、な。でもオレだけじゃねえぞ? 花形はウルトラマンみてーな眼鏡に変えたり、高野なんて眉細くカットして、余計に気味悪くなってたしよ!」
で、ヒゲを生やしてみたんだあ、と茉莉子は今の藤真と写真を交互に見比べた。こんな藤真もありかもしれないと思ってしまうのは、恋人の欲目だろうか。それにしても、思いもよらないところから攻撃を仕掛けられたような。あまりの見慣れなさに衝撃だった。
「ま、気分転換にはなったよ。あんまり評判よくなかったからすぐ戻しちまったけど」と藤真も懐かしそうに手に取った。