藤真長編U

□conte 34
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その週末、大学勢で唯一勝ち進んでいるF体大の試合を藤真と矢野と観に来た。

「オレ、邪魔じゃね?」
「何を今さら。それに誘ったのこっちだから。私じゃバスケのことわかんないし、一緒に観たほうが楽しいでしょ」

女特有のねちっこさや嫉妬深さ、相手を管理したがったり、かと思えばリードされたがる、そういうめんどくささがない茉莉子だから、藤真ともうまくやっていけるだろうなと矢野は思う。
しかも驚いたのは、予想外とも言える藤真の態度。茉莉子のことを気遣い、彼女や彼女の周囲に配慮を見せ、過保護なほどだ。思慮深い人間だと思ってはいたが。


帰りがけ、花形を発見した。この会場においてもその身長はかなり目立つ上に、この場に不似合いな知的なオーラを漂わせていた。茉莉子も夏に試合会場で会ったことがある。

「藤真の家庭教師の──」
「いや、今は付き合ってる。彼女」

「略奪……」と言いかけた花形を、藤真が「んなワケねえ。正攻法に決まってるだろ」とさえぎった。
意味がわからず不思議そうな茉莉子の横で、矢野は笑いを堪えきれない。「きっとそうなるような気がしてたよ」と花形は慌てて取り繕った。

とはいえ、そう思っていたことは本当だ。彼女がミーハーな気持ちから観にきていたわけではないのは察せられたし、何より藤真が。そう、インカレの試合後に垣間見た、彼女と嬉しそうに会話する姿から、ぼんやりとそんな風に花形は感じていた。


「それより花形、なんかスゲー疲れた顔してねえか?」
「ああ、徹夜明けなんだ。実験の手伝いで泊まり込みで」
「マジかよ」

茉莉子も「理系の人って、本当にそんなことあるんですね」と感心している模様。
理系……理系の男……そんな言葉が藤真の頭をよぎる――

「まだ研究室には属してないんだけど、先輩に誘われて。生物化学は対象が生命体だから、始めると途中でやめられないんだ」

なるほど確かに。好きじゃなくちゃ出来ないなと茉莉子は思う。しかもその後にこうやって試合を観にくるなんて、彼のバスケ好きも相当なものなのだろう。

藤真と矢野が先輩に声をかけられ、そっちに気をとられている間、茉莉子と花形は、花形の研究の話をしていた。と言っても茉莉子にはまったく理解できない内容だった。

「生命現象を分子や遺伝子レベルで解明していくんだ。ゲノムの構造とその複製に……」

この辺りの話はさっぱりわからなかったが、「まだ解明されていない病気を引き起こすメカニズムを明らかにできれば、治療法が見つかるかもしれない」という言葉は感嘆に値する。

「すごいですね。ノーベル賞も夢じゃない世界?」

尊敬の眼差しで花形を見上げる茉莉子。それに気付いた藤真がおもしろくなさそうな表情を浮かべたことが、矢野はおかしくてたまらない。ニヤニヤしながら自分を見る矢野と目があった藤真は、意味もなく何度も髪をかきあげた。

「オレがどんなに茉莉子と仲良くしてよーが、そんな顔してくれねえのになあ」
「花形はいい男だとオレも認めてるからな。おまえは問題外……つーか許容範囲?」
「どっちだよ……」
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