藤真長編U

□conte 35
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Le dernier conte (最終話)

「フワフワした毛の付いたマフラーしててよ。かわいかったんだよなー」

三井が言うには、その女の子の代わりに自分が水たまりにハマったとか。とはいえ、コケたことには変わりない。

「で、気にすんなって言葉少なに立ち去るオレ。いい男だろ?」
「なにカッコつけてんだよ」
「次にまた偶然会ったりしたら、運命感じられちゃったりしてよ。お、いいね。これから毎週この辺りを走りに来っかなー」
「そんな仕組まれた偶然、運命でも何でもねーだろ」
「きっかけになりゃーいいんだよ。『あの時のお詫びを』とか何とかって連絡先聞かれたり、そこから会うようになって『好きになっちゃいました』はヤベーな」

なんて、ひとり想像力豊かに三井が語っていると、インターフォンが鳴った。藤真が「開いてるよ」と言うのが、バスルームで着替えている三井にも聞こえた。そしてその少し後から女の子の声が――

「あれ、誰か来てるの……?」
「ちょっとな。でももう帰るから、入れよ」

おっ?誰だ? と三井は借りたTシャツをぞんざいに身につけると、ひょっこりと顔を出した。

「あ……!」

目があった女の子は、一瞬わからなかったようだが、すぐに驚きで目を見張った。
「さっきの……。なん…で?」と戸惑っていたが、三井の言った近くに住む友達というのが藤真のことだと気がついたようだ。そして、それよりも早く事態を理解したのは藤真。

「コイツが目の前でコケたんだろ?」
「ちげーよ! ぶつかりそうになって避けたら……」

「ううん、実際、ぶつかっちゃって……すみませんでした。けっこう濡れちゃいましたよね?」と茉莉子が申し訳なさそうに三井をかばうから、ふーん、と意味ありげに藤真が頷いた。

「ぶつかった相手って茉莉子だったんだ」
「もしかして……藤真の彼女?」
「そ、彼女。偶然だよなあ。だからオレ、今、三井にすげー“運命”感じた」

そう言う藤真の口振りには少々のトゲが含まれているような。しかも、茉莉子のはずしたファーのマフラーを手に取って、それを弄ぶように、三井に見せつけるようにしながら、「“お詫び”に俺が服貸してやるよ」との藤真の声には面白がっている風情がかすかに。三井はチッと聞こえないように舌打ちした。


もうコイツ行くからいいよ、と藤真は言ったけれど、茉莉子は三井のために温かいコーヒーを淹れた。

「風邪ひかないでくださいね」
「心配いらねーって。バカは風邪ひかない。バスケバカだからこいつ」
「それは否定しねーけど、オレだけじゃねえだろ」

ふふっと茉莉子は笑った。彼も藤真に負けず劣らずのバスケ好きらしい。そういう人を藤真は呼び込む力があるのだろうか。

いや、バスケに関わらず藤真は人を惹きつける。そのルックスからだけではない。たとえそこから入ったとしても、結局は彼の男気や、意外な面倒見のよさや、真摯な姿勢、裏表のない潔さに心揺さぶられる。

そして、そんな彼だから、彼の望みをかなえてあげたい。彼のプライドを守りたい。そのためには在学中に日本一になって欲しいと茉莉子は切に願う――
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