藤真長編U

□Période d'essai
1ページ/2ページ


冬休みも明け、1週間ほどの通常の講義をへて、来週からテスト期間。
出席してればいいものや、レポート提出で済むものもあるが、語学はそうはいかない。英語はともかくとして、本来困りものの第2外国語だが、藤真には専属家庭教師がいる。


さらに助かることに―― 一般教養のテストは過去問がものをいう。教授たちは毎年同じような問題を出し、モデルチェンジがなされることはほとんどない。
そこでも茉莉子の力添えは大きかった。それは彼女の人脈。この大学内においての話だが。内部出身者に出回る過去問の量は実に豊富だ。

問題だけで答えがなかったり、何年前のコピーだよという当てにならない代物ばかりのバスケ部の先輩から流れてくるものより、精度は抜群だった。自身はとっていない藤真の履修分もかき集めてくれており、おかげで楽にクリアできそうだ。


講義後は一緒に図書館で勉強した。隣り合って座るときは、茉莉子が右で藤真が左。
電子辞書を片手に励んでいた茉莉子だが、もの足りないのか、紙の辞書をとってきて引き始める。

ページをめくるカサカサと乾いた音。書き綴るときのさらさらと流れるようなペンの響き、そのすべてが藤真の耳に心地よい。
少しすると飽きたのか、茉莉子が藤真のノートの端に『ねむい』と書き込んできた。

「まだ1時間もたってねえぞ?」
「ん〜、眠気覚ましに図書館一周してくる」

そう言って立ってから、もう10分ほどたつだろうか。戻ってこない茉莉子を探しに、藤真も立ち上がった。すぐに見つけたのだが、突っ立ったまま、熱心に本を読んでいる。藤真が近づいても、まったく気が付く気配がない。
「その集中力、勉強につかえよ」と声をかけると、茉莉子は飛び上がるほど驚いた。

「びっくりした……」
「全然帰ってこねえから。道草食いすぎ」

笑ってごまかしながら、茉莉子は慌てて書棚に本を戻したが、藤真はしっかりその表紙を目にした。

『アスリートのためのスポーツ栄養学』

自分のことを考えてくれている、それだけでほんのりと心が温まった。茉莉子といるとそうなんだ。癒されるというより、満たされる。幸福を感じる。そして自分は茉莉子を甘やかしたくなる。

「休憩するか?」

「今、しちゃったよ」とはにかむように笑う茉莉子。そんな愛らしい笑みを見せられたら、熱をもったこの頬はおさまってくれるだろうか。抑えられない。

ちらっと周囲に視線を走らせ誰もいないことを確認すると、身を屈め、茉莉子にキスをした。驚き、後ろずさる身体を逃がさないよう腕を引き、もう一度。

「んっ……こんなところで」
「だからいいんだろ?」
「もう、何言ってんの」

そう言いつつも、フフッと笑い、再び近づいてくる藤真に茉莉子もチュっと返した。
ちょっとドキドキするキス。
たまにはこんなのもいい。

これでしっかり目が覚めただろうと思ったのだが、それから30分するかしないかで、頬杖つく茉莉子がウトウトし始めたことに藤真は気付いた。
結局居眠りすんのか、と整ったその口元に優しい微笑を浮かべ、彼女のノートの真ん中に『ねるな!』と書き、だが起こすことはせず、時折カクッと頭を揺らす隣人にニヤニヤしながら勉強に励んだ。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ