藤真長編U

□Désir naturel 1
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A学大の練習試合。
最近、ギャラリーがとみに増えている。他大学ではありえない女性率の高さ。ア〇ックスの新作広告の影響だろう。今期からレディースの宣伝のために、藤真の恋人設定の女性が起用されているのだが、ふたりの雰囲気がいいと評判らしい。

「茉莉子、見た?」
「……うん」
「彼女だと勘違いしたっていう従妹なんだって?」という問いには苦笑いで答えた。
「ま、従妹で良かったじゃん。他の女の子と絡んでたらイヤでしょ?」
「それは…そうだけど……」

とはいえ、やはり何とも言えない複雑な心境。従妹の彼氏もそう思っているかもしれない。

「本人、拷問だとか何とか言ってたけど、その割にはいい感じだと思わない?」
「そりゃあプロが撮ってんだからさ。あ、妬いてんの?」
「ううん、本当の恋人同士みたいとか思っちゃう自分を持て余してるだけ」
「本物の彼女がなに言ってんの」と友人はブッと吹き出した。

「知ってる? あんな風に藤真くんから見つめられたいって話題になってるそうだけど、茉莉子を見る時の藤真くんの目はまさにあんな感じだよ」

そう言って、アップをする藤真を眺める。茉莉子もフロアに視線を落とした。
感触を確かめるようにペイントエリア外からのシュートを繰り返している藤真。練習試合とはいえ、その目は熱く真剣そのものだ。コートの中を走るたび、剥き出しになった腕や足にくっきりと筋肉が浮かぶ。
黙ったままそれらを見つめている茉莉子を友人は身体を曲げて覗き込み、さもおかしそうに肩をすくめた。

「茉莉子の目もね。熱い視線送っちゃって」
「からかわないでよ」
「まあ、茉莉子は藤真くんの夜の顔も知ってるわけだし? あのユニフォームの下の身体も。ねえ、一緒にお風呂入ったことある?」

「ちょ、ちょっと!」と茉莉子は辺りを見回した。以前、花形と高野が真後ろに座っていたことが思い出される。藤真の知り合いがいないとも限らない。先日は近所の交差点でぶつかった相手が藤真の友人だった。

「今度、腹筋触らせてもらおっと」
「矢野もすごいらしいよ。どっちが割れてるかって言い争ってたし」
「藤真くんのだから意味あんの。あ、触らせたくないんでしょ〜? めっずらし。茉莉子が独占欲丸出し」

そんなんじゃないよ、と顔をそむけた。だからといって、じゃあ何なのよと聞かれたら答えられない。

「あはは。お互いさまだからいいんじゃない?」
「お互いさま?」
「矢野が言ってたんだけど、この前、茉莉子が経営のダイキとしゃべってるの見て、藤真くんが『誰? あいつ』って聞いてきたんだって。気になっちゃったみたいよー?」

思いがけない話に驚く暇もなく、試合開始直前のブザーが鳴った。コートに出てきたメンバーの最後に藤真がいる。今日も彼はスタメン起用だ。

「あの藤真くんもヤキモチ妬いたりするんだねえ」
「ヤキモチなんて言うほどじゃ……」
「恋人への嫉妬や独占欲は、“お腹がすいた”とか“眠い”と同じくらい自然な欲なんだからさ。藤真くんだって」
「ずいぶん哲学的なこと言うんだね」
「おとといの心理学の講義で教授が言ってたじゃん! って、そういえばまたふたりで消えてたよね、まったく」

ちょうどティップオフとなり、にじんでくる笑みをこらえるように茉莉子はコートの藤真に視線を落とした。
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