短編

□再会
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※企画『97年のヒット曲でSD小説をかいてみた』より。【PRIDE】(今井美樹)を元に作りました。


梅雨の時期にさしかかるため天候が心配されたが、空はきれいに晴れ渡っていた。初夏の眩しい日差しがふりそそぎ、まさに今日という日にふさわしい。会場は紫陽花のグラデーションに包まれ、ジューンブライド──6月の花嫁はとても幸せそうだった。

名前は三井が円卓の向かいの席であることにホッとした。さすがに隣合わせは厳しい。席次には気を遣ってくれたようだ。だが、お酒が入ってくると友人たちは容赦ない。
「そういえば、おまえたち、付き合ってたよな」
一瞬、三井と目が合った。
「そういうことはよく覚えてんのな」
「お似合いだったんだけどなあ、あっちに座っててもおかしくないぜ」

彼は新郎新婦を振り返った。お酒を注がれたり、写真を撮ったり忙しそうだが、そのたびに新郎が新婦を気遣い、照れ臭そうにしている姿がほほえましい。

「あの頃のオレ、バスケバカ過ぎたからよ。愛想つかされても仕方ねえ」
「それ織り込み済みだったんだどね、私も器小さくて」
その場をやり過ごすために自分も笑って会話に参加した。今となっては何でもない、もう過去のことだというアピール。
「ああ、三井のシュート思いだすなあ」
「受験前なのに冬の選抜試合、皆で見に行ったよね」
「あの旗、今、誰持ってんの?」

名前は小さく息を吐きだした。話題が変わっても、胸に広がったかすかなざわめきは収まらない。何でもない風を装い乗り切ろうと覚悟してきたはずなのに。
ひと段落ついた時に中座し、化粧室で口紅を引き直した。鏡に映る自分の顔には、中途半端な笑みが張り付いている。あれから2年以上たった。あの頃の後悔や未練は消化したはずなのに── なのに、にわかに心揺さぶられるのはどうしてだろう。

会場に戻ろうとホール抜けると、螺旋階段の手すりに寄りかかるように立っている男の姿に、ふっと名前の足が止まった。
「大丈夫……か」
顔を覗き込むように三井が尋ねる。名前は頷いた。
「そっちこそ」
「みんなハイペースだよな。ま、しょうがねえか、めでたいんだから」

そう、今日は高校の同級生同士の結婚式だ。三井もダークスーツにシルバーのタイ、足元は黒のストレートチップ。久しぶりの再会に加え、見たことのない正装姿を目の前にして名前は緊張が隠せない。声がうわずってしまう。

「よ…酔っぱらうのも時間の問題だね……」
「そう、だからそうなる前に言っておかねえと」
そう言って三井は薄く笑うと、かまわず続けた。

「──オレとやり直して欲しい」
躊躇いなく言い放たれた言葉に、名前は目をしばたたかせた。心臓がとまったかと思った。
「それ言うために今日ここに来た」
「なに言って……今日は堀田の結婚式だよ」
「ああ、もちろん、そのチャンスをくれた徳男たちには感謝してるぜ」

何が何だかわからない。覚えた眩暈を何とか抑えて、大きく息を吸い込んだ。とまったかと思った鼓動が今までの倍の速さで打ちつける。

「オレ、あれから少しは成長したと思う。だからやり直すっつうより、あらためて付き合ってくれ、だな」
「だからって、どうして今……」
「不意打ち狙い。連絡しても拒否られるかもしれねーし」
「そんなことないよ、私だって……」
三井のことを忘れられなかった。ずっと、ずっと。
「ずっと会いたかったんだから──」
目の前の三井がみるみる揺れる。涙がこみあげてきた。
「泣くなよ」
「だって……もう、せっかく化粧直してきたのに」

その時、お色直しを終えた新婦と、それを迎えにでた新郎がやってくるのが見えた。ライラックブルーのドレスが可愛らしい。言われるがままにぎこちなく寄り添う堀田。スタッフに案内され、ドアの前にスタンバイする。会場内では、司会者がふたりの再登場を告げていることだろう。

「戻るタイミング失っちゃったね」
「このままどっかいっちまおうか」
冗談だとわかっているけれど、三井らしい。懐かしい感覚。
「ほんと、何しに来たのよ」
「だよな、徳男に怒られちまう。つーか、あいつらが結婚するとはなあ」
「1年前に偶然再会したとかで、あっという間にこれだもん」
「再会してあっという間? それも悪くねえな。さ、行くか」
ふいに三井に肩を抱かれ促された。
「ど、どこに……?」
「ばーか、披露宴に戻るに決まってんだろ。おまえ何しに来たんだよ」

それを三井が言うのかと軽く睨めば、不敵な笑みを向けられる。ああ、この顔が好きだった。それをまた間近で見れるとは思わなかった。
「ちょっと、どこが成長したのよ」
変わっていないことが嬉しいなんて、どうかしている──

主役ふたりにスポットライトがあたる中、闇に紛れて同時に席に戻れば、女友達に意味ありげな視線を送られた。
「戻ってこないかと思った」
「そんな酔ってないってば」
そう笑ってごまかす名前の手には、三井に差し出されたハンカチ。ぎゅっと両手で握りしめた。
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