仙道 前半戦

□conte 02
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休み時間、教室にひょっこりと仙道がやってきた。

「あ、小夜子ちゃんだよね? 越野いる?」
「もう出てっちゃったよ」
仙道は明らかに困った顔をした。あまり感情を表にださない彼が、こんな表情をするのは珍しい。
「あのさ、このクラス、化学のレポート終わったって聞いたんだけど……」
「見せて欲しいかい?仙道くん」
「ぜひお願いします」

仙道はニコリと笑った。かなり上からそんな柔らかな笑みを落とされたら、その威力はかなりのもの。
『なぜか憎めないヤツなんだよな』
越野から愚痴まじりに聞かされていたのはこんなところに違いない。

「あれ、ないなー。玲、化学のレポートある?」
「うん、あるよ」
「それ、仙道くんに貸してもいい?」
仙道の懇願するような目が注がれる。
「どーぞ、丸写ししてください」と玲は笑いながら仙道に手渡した。

「ありがとう、昼までに提出なんだ。ほんと助かったよ」
「そんな感謝されると後ろめたいな。私も友達のを写させてもらっただけだから」

仙道が去ったあと、クラスの女の子たちの話題は仙道一色。名前で呼ばれるなんて、いつ親しくなったの?やっぱり仙道くんかっこいいね。この前の試合すごかったらしいよ。この間は先輩から告白されたらしいよなどなど、越野が聞いていたらウンザリした顔をするだろう話題で盛り上がった。




そして、部活後のテニスコートに仙道と越野が現れ、玲を手招きするではないか。
「玲ちゃんのレポート、越野に渡しといたから。ありがとな」
越野につられてだろう、仙道が玲ちゃんと呼ぶ。きっと苗字を知らないだけ。けれど何だかくすぐったい。
仙道は感謝の気持ちとドリンクを差し入れてくれた。はちみつレモンが入っているところを見ると、わざわざ買ってきてくれたらしい。

「それ好きなのかと思ったから。あってる?」
「もちろん、よく覚えてたね。運動のあとにはコレ最高!」

小夜子の分もあった。仲介料だと彼は言う。
『ぼんやりしてっくせに、よく見てる……ときもある』との越野の言葉を思い出しながら、玲はボトルに口をつけた。
白い首筋が露わになり、飲むたびにコクコクと動くさまを仙道は優しく見つめていたが、そんな視線に気づかず、玲は盛大な溜息をついた。

「はあ〜、たまんないな〜」
「おいおい、オヤジのビールじゃねーんだから」
「甘いな、コッシー。これは女子高生の恋の味なの。溜息必須!」
「じゃ、はちみつレモンのような溜息ものの切ない恋を玲はしてるわけ?」
小夜子がすかさず突っ込んできた。部活ばかりの実態を知っているくせに──

「いえいえ、でもそこに溜息つかれまくってる人がいますよ?」と玲が振り返った先は仙道。ふたりの視線が絡みあい、仙道は我に返った。
「ん? オレが何……?」
「そうねえ、仙道くんが見せてといったら無償でレポート差し出す子、いっぱいいたのにね。こんなお礼をするハメになっちゃって」

そんなのオレが阻止する! と越野が腰を落としてディフェンス姿勢をとれば、仙道は小さなフェイクを入れて、越野のわきをかいくぐる様にすり抜けた。玲の隣にさっと来ると「ディフェンス あめーよ」と言いながら玲の頭にポンと手を置いた。
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