仙道 前半戦

□conte 03
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昼休み、食べたらやっぱり昼寝といわんばかりに仙道は自分の定位置に陣取った。屋上の出入口の扉の上、一番高いところ。海が見えるここが好きだった。
だが目を閉じて寝入ろうとすると、ドアが開き、人が出てくる気配がする。男女ふたりらしい。そして案の定、告白が始まってしまった。

「オレ、サッカー部2年の島っていうんだけど、部室の前とかですれ違ったり見かけるたびに芹沢さんのことが気になってたんだ」

芹沢って越野のクラスのあの子じゃないだろうか。

「彼氏はいないって聞いたけど、ホント?」
「……はい」
「じゃ オレと付き合ってもらえませんか」

しばし沈黙が流れるのがわかった。

「あー、やっぱいきなり過ぎたよな」
「あの、えっと……ごめんなさい! 先輩のことをよく知りもしないのに、そういうわけには……」

あーあ、振られちゃったと仙道は空を見上げた。この場に居合わせてしまったことに気が咎める。だが、その男は挫けなかった。

「じゃあ、オレのこと知ってもらえたら、望みあるのかな」
「いえ、そういう意味じゃ……」
「これから意識してもらえたら嬉しい。今日はそれで充分だから」

玲にはっきりと断る間を与えなかった。押してだめそうだから、いったん引いたかと仙道は思う。
しばらくすると、話し声は聞こえなくなった。もう行ったかなとヒョイと仙道が覗き込んだところ、伸びをしながら空を見上げた玲と目があってしまった。その驚き見開らかれた瞳になぜかドキリとしてしまう。

「せ、せ、仙道くん! いつからそこに……って聞こえちゃったよね」
仙道は苦笑した。そっか、とだけ言って玲はストレッチをするように両手を伸ばした。

「そこどうやって上がるの? あ、まさかジャンプ?」
「ハハ、まさか。後ろにハシゴあるよ。おいでよ、海が見えるから」

上に登ってきた玲は、仙道の隣にストンと座った。空は抜けるような青さに澄み切っており、風は心地よく清々しい。

「あー、気持ちいい! 昼寝しにきたの?」
「まあね、眠気とんじゃったけど」
「邪魔しちゃったね。ごめん」と玲が気まずそうにした。
「なんで玲ちゃんが謝るのさ。しっかし今の先輩、すげえ前向きだったな」
「ごめんが伝わってなかった……よね」
「彼、望みないの?」
「ほぼ初対面でそんなのわかんないよ」
玲の困ったような顔に、仙道は頬を緩めた。

「ね、仙道くんは毎回どうしてるの」
「何を?」
「女の子にお断りする時。数々の告白や誘いをことごとく断ってるって聞いたよ」

まったく玲にそんなこと吹き込むのは越野だろう。人をネタにして女の子と仲良く会話とはいい身分だ。

「まいったな。オレは普通にごめんって」
「なんだ、それじゃさっきの私と変わらないし。なんか奥の手があるのかと思ったよ」
「手ぇ出しちゃマズいだろ」

その返しに玲は表情を崩して笑う。さきほどの先輩への遠慮からか、今の今まで浮かない顔をしていたのが嘘のよう。
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