仙道 前半戦

□conte 04
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6月上旬。
例年、陵南高校ではこの時期に体育祭が行われる。メインの学年別クラス対抗リレーは、何といっても一番盛り上がる競技だ。各クラスから男女それぞれ4人づつが選出されていた。

「はあー、7組はおまえがアンカーかよ」
「越野のクラスは陸上部のやつじゃん。反則だろ」

アンカーのタスキをかけながら、仙道はのんびりと立ちあがった。走者の集合の中でやはりひと際背が高い。何気なく辺りを見回すと、ふと目があったのは、ウォーミングアップ中の玲。

「気合い入ってるね、玲ちゃん」
「どうせ走るなら目指すは一番でしょ。負けないから」と対抗心をむき出しにされる。へえ、こういう子だったのかと仙道は思った。

結果は……越野からバトンを受け取ったときは2位だったが、玲がトップにおしあげた。そして、アンカー陸上部でゴールのはずが―― 仙道の2人抜きにより、女子のものすごい歓声とともに、優勝も持っていかれてしまう。まだ息の乱れる仙道に、越野は後ろからヘッドロックをかけた。

「何で陸上部抜くんだよ!おまえが反則だろ!」

当の陸上部の本人は、やべえ、これから練習しごかれるだろうなあと苦笑い。周りからもストライドの違いだよ、と慰められていた。

「おいしいとこ持ってかれたあ。余裕そうな顔しちゃってずるい」
「どうせなら一番って言ってくれたの、玲ちゃんだから」と仙道は悔しがる玲の肩をポンとたたいた。

「っく、仙道……!」


そして、最後の締めは体育祭恒例の部対抗リレー。運動部はユニフォームで本格的に、文科部は走りを競うというより、楽器を演奏しながらや、茶道部は着物で、漫研はコスプレでと特色を出し、イベント化して盛り上がるプログラムだ。
男女別でチームを組むのだが、仙道は今回は第一走者。バスケ部メンバーで集まっていると、後ろにいたバレー部の先輩たちの話し声が耳に入ってきた。

「あの子、超かわいくない?」
「あの初々しさは1年じゃね」
「やっぱあのスコート姿、いいよなー」

その視線の先を追うと、玲だった。テニス部はもちろん公式の襟付きTシャツにスコートの王道テニスルック。胸に陵南カラーのブルーで、学校名とマークが描かれていた。
女子に続いて男子の部。さすがに部対抗になると、意地でも負けられないのか、陸上部が男女揃ってトップとなり、部員たちはほっと胸をなでおろしているようだ。

「センドー」と声をかけられて、座ったまま振り仰ぐと、玲がニコニコしながら覗き込んできた。

「バスケ部、3位だよね?」
「ん」と答えると、玲は嬉しそう「勝ったあー!女子テニス2位」と右手でVサインを見せた。
腰に手をあてて「ま、今日のところはイーブンかな」と素直に笑顔を見せる姿を下から眺めて、思わず「かわいいな」と仙道は口走りそうになる。

「玲ちゃん、これ短いね」

座っているとちょうど目の前の高さになるスコートを指さすと、あきらかに玲は赤くなった。

「あえて指摘しないで! 恥ずかしいんだから」
「そのわりにずいぶん立派に仁王立ちしてるけど?」
「……」




それから数日後。夏の予選を目前にして、どの部も気合いがみなぎるこの時期。バスケ部が外周をランニングしていると、通りかかった玲がニヤっと笑い「仙道、マジメに走れ!」と言って、越野には「コッシーがんばれー!」と声かけた。
いつもの3周を終え、水飲み場へ駆け込んだ。

「玲ちゃん、仙道くんって呼んでたよな?」
「ん、何かこの間から敵視されてるよーな」
「あのリレーか? すっげえ悔しがってたもんな」

福田も、オレも悔しいとボソッと言う。実は彼も2組代表でリレーに出ていたのだ。

「仙道にライバル意識か。さすが玲ちゃん、強気だなあ。小夜子も言ってたよ、玲ちゃんは見た目と違って熱い女だって」
「へえ、意外」と仙道はチラッとテニスコートの方に視線を走らせた。


「体育祭の芹沢さんのスコート姿がすっげえかわいかったって、上の学年でも話題になってるらしいね」と植草が思い出したように言うと、越野が大きく頷いた。
「今週になってから、時々2,3年が教室に見に来るぜ」

またもや頓着なく感心している様子の仙道に、不快感あらわに越野の罵声が飛んだ。
「へえ〜じゃねえよ。おまえもクラスリレーで目立っちまってから、女の子ラッシュじゃねえかっ!」
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