仙道 前半戦

□conte 05
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玲が体育倉庫に向かっていると、その脇に仙道がいるのが見えた。あの身長と髪型は間違いない。近寄って声をかけようとして初めて、その陰に女の子がいるのに気付いた時には遅かった。

「うん、ありがとう。でも今はバスケと付き合ってるから。ごめんな」

聞こえてしまった。マズいところに出くわしたものだ。女の子は涙を浮かべ走り去っていく。そっと引き返そうとしたが、それも手遅れ。踵を返した仙道としっかり目が合った。

「いつかの逆みてえだな、まいったな」

苦笑いを返せば、仙道は入口の階段に腰をおろし、隣をポンポンとたたく。座れということだろう。

「バスケが彼女?」
「んー、そうだな。それあるかも」
「自分で言ったくせに、この男は……」

玲が眉をひそめると、そうだっけ、とつかみどころのない返事が返ってくる。

「だってさ、死ぬほど練習しないとすぐ振られちゃうし」
「他の男のとこに行っちゃうかもしれないし?」
「あはは、それは困る。だから一生懸命尽くしてるんだけどなあ」

のらりくらりと捉えどころのない彼だが、バスケに関しては真摯でひたむきだと聞く。スイッチ入ったときの仙道は凄いぜ、といつも辛口の越野も言っていた。そのスイッチがどこにあんのかわかんねーんだけどよ、とも。玲はチラリと仙道の横顔を見やった。

「ん、どうした?」
「何でもない。じゃ、その彼女のところへ早く行かないとね」と勢いよく立ち上がったとたん、玲はふらついた。
眩暈がして、目の前が真っ暗になる。あ、ヤバいと思った時には、そのまま倒れこんでしまう。仙道は反射的に玲を受け止めた。

「玲ちゃん! 大丈夫か!?」

耳元で聞こえる声にだんだん視界が開けてくる。自分の状況が見えてきたが、また頭がぼんやりし、すぐに立ち上がれそうになかった。立ち上がったらまたふらつきそうだった。

「ちょっ…と、待って……ごめん」

ちゃんと意識があることに仙道はホッとし、頷きそのまま動きを止めた。ほんの数十秒だったと思う。起き上がらないと仙道が迷惑する、しっかりしろと回らない頭で必死になるが力が入らない。そしてそれを許してくれるような温かさ。頬に触れる仙道の胸。それに包み込まれるような心地良さを感じてしまう。


「……何してんだ?」

上から越野の声がして、玲はハッとした。頭を起こすが、まだ動きは鈍い。仙道が肩を支えて立ち上がらせてくれた。

「ごめん。ちょっと、眩暈して……」
「ん、ビックリしたよ」
「ごめんね」
「このあと部活、行けんのか?」
大丈夫と言っても、今日は休めと心配してくれる。

「急に立ち上がったからだと思う。ただの貧血だから」
「体調不良を甘くみるなって」
いつになく厳しい口調。きっと仙道自身、人一倍体調管理に気をつかっているのだろう。
「わかった。今日は軽いメニューにする、ありがと」




玲の後ろ姿を見送りながら、オレたちも行くかと越野は仙道に声をかけた。が、反応がない。
「おい、仙道?」
まさか彼も体調が悪いのだろうか。

「いい匂いした」
「は?」
「玲ちゃん」

何を言い出すんだコイツは。開いた口が塞がらない。

「そういえば、おまえ、女の子に呼び出されてたんだよな」
「え、あ、そうだっけ?」
呆れるを通り越して、キレ気味の越野。
「仙道だけいつもの倍メニューなっ!」
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