仙道 前半戦

□conte 07
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集中力を欠く仙道に、田岡は外周ランニング10周をいいつけた。キツイなあと思いながらも、シューズを履き替え体育館をあとにすると、外のさわやかな空気に悪くはないかもしれないと思えた。風が実に心地よい。残りあと数週のところで、前方に玲を見つけ、追いつき並走する。

「ペナルティ?」
「……ってことは仙道も? あと何周?」
「3周」
「私、あと2周。ねえ競争しよっか」と不敵に笑いながら提案してくるではないか。
「お、いいね、ただ走るんじゃもったいねーよな」
「もっとハンディ必要かなぁ」
「いやいや、それ以上は勘弁してよ」とニヤリと笑う仙道。

彼女ならその根性だけでハンディなんていらなさそうだと思ったが、真面目にやらないと危ういので、仙道はスピードをあげた。
玲もその速さについていきたかったが、さすがにそれは無理があるので、とにかく一周差を埋められなければいいと、仙道の背中を追った。


すでに蒸し風呂のような体育館。バスケ部員たちは休憩の掛け声とともに、少しでも涼むために一斉に外に出ると、ちょうど目の前を全速力で駆け抜ける女子と、彼女を追いかけるようにこれまた全速力の仙道が走り込んできた。ほぼ同時に芝生に倒れ込むふたりに、ただただ唖然。

「何……してんの? おまえら」

越野が呆れ顔で声をかけるが、仙道は倒れ込んだまま、苦しそうに肩で大きく息をするだけ。玲は何か言おうとするも、呼吸するだけで精一杯で声にならない。
立ち去ろうとする越野たちに、仙道が待てという素振りをした。

「……どっちが…勝った?」

咳き込みながら、自分と玲を指さす。このふたりはどうやら競っていたらしい。
「知るかよっ」と越野は言い捨て、さっさと体育館に戻ってしまった。


「ま、いっか」と呼吸を乱しながら仙道が言うと、玲も素直に頷いた。木陰に仰向けになって空を見上げると、風が火照った体をなでていく。気持ちいい玲は腕を頭にのせて、まだ大きく息をしていた。

何でこんなことになったんだっけ、と仙道は首を捻りつつも、何だかんだ無心に走り、最後は前方に見えてきた玲を抜こうと、全力疾走までしたことに爽快感を感じていた。田岡に怒鳴られ、仕方なく走りはじめたことを忘れてしまうくらい。その前に、モヤモヤと考えていたこともすっかり抜けてしまうほど。
体育館のように閉鎖された空間にいるより、外は何て気持ちがいいんだろうとそのまま座り込んで風に吹かれていた。

「玲ちゃん、そろそろいこーか」と声をかけても返答がなかったので、 覗き込んで初めて、彼女が寝てしまっていることに気が付いた。
「まったくこの子は」とククッと笑いながら、仙道は入口に置いておいた自分のジャージを玲にそっとかけてから、体育館に戻った。




「ちょっと、玲帰ってこないんだけど」
「行き倒れてんじゃない?」

外周を走りにいってからいっこうに戻ってこないのを心配して、小夜子たちが様子を見にいくと、木陰で眠っている玲を見つけた。
近づくにつれて、彼女に紺色のジャージがかけられているのがわかる。そこには「SENDOH」と刺繍があった。
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