仙道 前半戦

□conte 08
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夏休み最終日、テニス部は他校と練習試合を組んでいた。バスケ部はといえば、通常通りのハードな練習に脇目も振らず── と言いたいところだが、時折、開け放たれた扉からスコート姿の女の子たちが横切るのが見え、皆、何やらソワソワと落ち着かない。

もちろん、仙道もスコートに興味がないわけがなく、それに玲の試合を見てみたいというのも正直なところ。しかも、覗きにいった先輩が、今やってる1年生はかわいくて、しかもうまいと言ってたので、玲だと確信し、越野と福田とテニスコートを見に行った。

「やっぱり玲ちゃんだ。すげえ、スコート姿かっけー」と越野が思わず漏らす。しかも上手いと福田も見入っていた。

仙道も玲に目を奪われる。コート上の彼女はいつもと違う。さらに気合いが入っているのが手に取るようにわかる。
シングルスはコートに入ればひとりだ。プレイも勝敗もプレッシャーもすべて自分の責任。今、この試合は彼女の優勢だが、そうでないときはどんな顔をするんだろうと仙道はぼんやり考えた。

短い休憩ゆえに戻ろうと歩き出した時、テニスコートから悲鳴が聞こえてきた。振り返った仙道たちが見たものは、コート脇の椅子に突っ込んだらしき、玲の姿。そしてよろよろと立ち上がるのが見えた。平気だと、まわりに手で合図している。

「見上げた根性だ。ルーズボールはあのくらい追わなきゃいかん。なあ、仙道?」

その声に恐る恐る振り返ると、田岡先生が階段の上に立っていた。

「いつまで見ておる!早くもどらんかっ!」




翌日は始業式。それも終わり、部活のある者は昼を食べてからそれぞれ練習だ。玲のクラスに仙道と福田がやってきて、目が合うやいなや……プッと仙道が笑った。何よ?と顔に絆創膏やガーゼを張った玲が睨み付ける。

「玲ちゃん、すごい勲章だらけだね。あーあ、女の子が顔に」と言いながら、仙道はそっと玲の頬の絆創膏に触れた。その優しいしぐさに思わずドキッとしてしまい、慌てて仙道の手を払いのけるように顔をそむけた。

「………」
「頑張りを称えにきたのに、怒るなよ」
「じゃ、笑うな。ね、福田くん」

越野から福田の話もきいている。彼も仙道に対抗意識をもっていて、いつも張り合っていると。
「ナイスファイト」と福田がボソッと呟いた。何だか妙な親近感を感じる。それに近頃、何かとバスケ部と関わりが多い気がするのは気のせいだろうか。

それにしても……と仙道が不意にそれまでとは違う真剣な口調で玲に向き直った。
「ケガ、気をつけろよ?」
上を見据えてスポーツをする者の、一番の敵は怪我や故障だ。どんなに実力があろうと、すべてが根底からひっくり返される。玲はその言葉は真摯に受け止めた。
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