仙道 前半戦
□conte 09
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たまの遅刻はあれど、仙道はバスケに関しての努力は怠らない。全体練習が終わってからも、今日の練習で納得いかなかったミドルレンジからのシュートを繰り返していた。フォームを確認しながら、無心にゴールに向かってボールを放つ。
どのくらいたったころだろう。仙道はふと人の気配を感じ、振り向いた。体育館の入口に玲が立っていた。目が合い、驚き我に返ったのは彼女のほう。
「あれ? どうした?」
仙道はグイッと汗をぬぐった。
玲は越野に用があって体育館に寄ったのだが、そこでは仙道がひとり黙々と練習していた。その真摯な姿勢に、仙道のイメージを覆される。知らなかった……仙道ってこういう人だったんだ、と。
後方から人の声や野球部の打音や掛け声が聞こえるが、それは遥か遠くに感じる。体育館内は静まり返っていて、仙道が打つシュートとゴールネットを揺らす音しかしない。美しい音だと思った。
規則正しく続くそれに、玲は何だかその場を離れられない気持ちにさせられる。そのリズムが崩れたと思ったら、仙道がこちらを振り向いた。聞けば越野はもう帰ってしまったそうだ。仕方がない。
「仙道、英語のプリントの訳、持ってたりしない?」
「あるよ。じゃ、もうここ閉めるし部室に荷物あるから一緒に来てよ」
ボールを拾い集めるのを手伝った。実際の手にしたときのバスケットボールの大きさに、これを軽く掴む仙道の手の大きさを感じた。
部室までの道のりは、他愛のない話をしながら。玲はドアの外で待とうとしたが、もう誰もいないから中で座ってろよと促された。
「襲ったりしないよ。ドア開けとくからさ」
「や、そういうわけじゃないよっ。変な噂たてられてもと思って……」
そんなこと意に介さず、仙道は何列かあるロッカーの奥の列に進み、着替え始めたようだ。それならと、入口わきのベンチに玲は腰かけた。
「意外とストイックに練習するのね」
向こう側の仙道に話かけると、「意外とね」と返事が返ってきた。普段接する仙道は、いつもニコニコしていて大らかで、以前見た試合のときの仙道は目を引く華麗なスーパープレイヤーで、さきほど見た仙道はそのどれでもなく、でもなぜか一番遠くに感じた。手が届かないような、入り込む余地のないような。
「すごい集中してたから声かけられなかった。感心したよ」
「玲ちゃんが褒めてくれるなんて珍しいね。あ、訳、欲しさのお世辞?」と仙道は笑いながら、目的のプリントをロッカーの横からひらひら見せるではないか。
「とんでもない。ちゃんと本心だって」
玲が近づいてプリントを受け取ろうとしたその時、まだ誰かいるのかー?と声がして、誰かが部室に入ってきた。