仙道 前半戦

□conte 09
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「おう、仙道。こんな時間まで自主練か?」
「池上さんこそどうしたんですか?」
「忘れ物してな」

バスケ部の部室に無関係な自分。黙ってやり過ごそうと、玲は身をひそめる。唇に人差し指をあてて、シッと仙道に合図した。だが、こちらに足音が近づいてくるではないか。

ふいに仙道に腕をつかまれ、開いていた仙道のロッカーの扉の内側に引き込まれた。これなら扉が目隠しになって、玲の姿を隠してくれる。ホッとするも、隠れる必要などないんじゃないかと疑問に思うが そう合図したのは自分だ。俯いていると、視界の端でおもむろに仙道がTシャツを脱ぎ始めた。

ちょ、ちょっと──

それと同時に、その池上さんとやらの声もさらに近づいてくる。2.3個となりのロッカーが彼の場所らしい。

どうしよう──

すると、仙道が近づいてきて、玲を隠すようにロッカーの目の前に立ってくれた。しかしホッとしたのもつかの間。

ち、近すぎる──

目の前には、仙道の鍛えられた厚い胸板。その下は六つにきれいに割れた腹筋。正視できず、玲は視線をそらせた。けれどその大きな存在は感じずにはいられない。さらに仙道の胸が近づいてきた。

な!?──

ロッカーに吊るされている制服のシャツを取ろうと手を伸ばしてきただけなのだが、玲はビクッとして、体をわずかにひいた。仙道はそんなに玲に気づき、クックと笑ったように感じた。

どうにも目のやり場がない玲だが、仙道は知らん顔して、池上と話しながらシャツに腕を通した。その度に彼の上半身にきれいについた筋肉が上下し、玲の心臓は今まで以上に早く鼓動する。さらにボタンをとめる彼の手に、直視できずとも、全身が集中してしまう。

何やってんの!? 私──


そのまま立ち尽くしていると、ふいに仙道の声がした。

「もう池上さん、行ったよ」
「え……?」

そっと覗くともう誰もいない。大きく息をつき、ベンチシートに座り込んだ。

「もうー、何やってんだろ 私」
「やましいことでもあったの?」という仙道を「面白がってたでしょ」と睨みあげた。するといつものように仙道は眉尻を下げて笑った。

「さ、下も脱ぐけど、どうする?」
「!?」

外で待ってる!と怒って玲は出ていった。待っててくれるんだあ、と仙道はニヤニヤが止まらなかった。
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