仙道 前半戦

□conte 10
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今週はテスト前の部活休止期間。
仙道は帰ろうと廊下を歩いていると、教室に玲がひとりでいるのに気付き「あれ、帰らねえの?」と声をかけた。

「あ、仙道、食べる?」と手招きされたので、前の席に後ろ座りすると、ポッキーを目の前に差し出された。そのままパクっと口にする。

「チョコレートって久々に食べたな」
「あ、嫌いだった……?」
「そんなことねえよ」

玲が手にいれた過去問をコピーしに行っている越野を待ってるそうだ。オレも欲しいと急いで電話しようとすると、ストップをかけられた。

「私が電話する」
「いいよ、オレの分だし」
「いやいや、私がかけた方がいいと思うよ?」

自分の携帯からさっさと越野にかけて、もう一人分追加をしてしまう。玲の手にある携帯を見て仙道はすかさず言った。

「玲ちゃん、番号教えてよ」
「あ、そうだね。そういえば仙道の知らないかも」

 玲はチョコポッキーを口に入れながら、携帯を操作する。そして自分の前にも一本差し出すので、反射的に口をあけて食べてから、餌付けされてるみてえだなと思った。なんだかくすぐったい。
そして頬杖をつき、名前を入力しているその様子を仙道は何とはなしに見つめていた。

瞬きをするたびに、長いまつげが揺れる。鼻から口、唇……誰かに似ている気がするが、どうにも思い出せない。
下を向いている玲の、ゆるくウェーブしている髪がひと筋ふた筋と前に落ちてきて、それが夕日を受けてキラキラ輝く。きれいだな。思わず仙道は手を伸ばし、その髪を耳にそっとかけてやると、玲はハッとして顔をあげた。



──驚いた。

顔をあげれば、けっこうな至近距離で仙道と目があう。彼の大きな手はまだ頬に触れるか触れないかの距離にあり、まるで引き寄せる直前かのよう。ただただ、目をそらせずにいると、その手がそっと離れていく。それに淋しさを感じる自分に玲は何とも複雑な気持ちになった。なぜそんな感情がわくのかわからない。
その時、玲の携帯が鳴りだした。越野からだった。正門で待ち合わせすると、慌てて立ち上がる。少し不自然だったかもしれない。


「なんで仙道いんの?」合流した越野が開口一番そう言った。
「さっき偶然会って。それよりありがとね」

玲はコピーを受け取り、それを仙道に手渡せば、越野が目を丸くした。

「あーー! 追加っておまえの分かよ」
「ありがとな、越野」
「仙道のって知ってたら、無視したのに」

玲は、ほらね?と仙道を見上げた。

「さすが、玲ちゃん」

仙道は越野のわかりやす過ぎる反応に肩をすくめて笑った。
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