仙道 前半戦

□conte 12
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陽は傾き、辺りに夕闇の気配が混じり始めていた。仙道と越野が体育館前に座って福田たちを待っていると、玲と小夜子が通りかかった。

「終わり? お疲れー」
ここで待ってて、と小夜子は校舎内に忘れ物を取りに行ってしまったので、玲はふたりの前に座った。

「あー、疲れたあ」
「おれらも。全身ガタガタ」
「私はもう肩が……使い物にならないよ」
そう言って右腕を回す仕草に仙道が気づく。
「やっぱ、右なんだ」
「そう、左右で全然違うよ」

玲が左手で後ろから髪を束ねると、白い首筋とうなじが露わになった。やべぇ、と仙道がつぶやくのを越野は聞き逃さない。ちらっと仙道を見やった。

「右だけ凝ってしょうがないんだよね」

緩くウェーブした髪がサラサラとこぼれ落ちてくるさまが色っぽい。そして後ろのふたりを振り返り、肩が凝るなんてオバサンっぽいよねと見上げて笑いかけてくる。その充実した笑顔に、仙道だけでなく越野も見とれてしまう。玲たちが帰っていったあと、仙道は大きな溜息をこぼした。

「センドー、玲ちゃんの色香に迷っだろ」
「ああ、ヤバい……な」
「お、素直だな。それって玲ちゃんに? それとも色気にか?」
「たぶん玲ちゃんに」

たぶんと言うわりに、迷わず答える仙道。

「えっ、マジ! おまえ玲ちゃんのこと? マジマジ!?」
「うるせーなあ、越野」
「だってよー」
「気づいたら落ちてるって言ったのはおまえだろ」

越野は高校に入ってからの仙道しか知らないが、あんなに告白されているのに一切いい返事をしないのを疑問に思っていた。

「おまえって意外とピュア……なんだな」
「『意外と』って何だよ。それにオレは一途だよ」
「それはまだわからねーけどな。ぜひ証明してくれよ」

それにしても玲ちゃんとは。彼女もかなりのアプローチを受けてる身。いつものように仙道ペースでのんびり構えていると他の男にかっさらわれるかもしれない。

「モタモタしてんじゃねーぞ」
「あ、やっぱり?」

それは仙道も感じている。

「玲ちゃんって 好きなヤツとかいんのかな……」
「聞いたことねえな。クラスでも誰とでも平均的って感じだし、むしろ親しい度合が高いのオレ?って自分でも思うくらいだし」
「『コッシー』って呼ばれてるしなあ」
「オレに嫉妬するな、オレに!」と言いつつ、仙道に嫉妬されるなんてちょっと気分がいいかもしれないと越野は思う。

「でもよ、『仙道』って呼び捨てにされてるのもおまえだけだぜ?」
「それ 微妙だな……オレだけって響きはいいけど」

仙道は本日2度目の溜息をついた。誰かを好きになると、相手の気持ちが気になり、ちょっとしたことに嫉妬し、ちょっとしたことに一喜一憂する。今までおよそ無縁なことに、仙道は戸惑う。しかも悠長に構えていられる相手ではない。

「玲ちゃん見習えよ、強気なとこ。おまえさあ、バスケ以外じゃマイペースすぎなんだよ」
「ハハ、そうだな。どうしようかなー」
「だから、そういうところが! もう知らねーぞ?」
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