仙道 前半戦

□conte 13
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朝練が終わり、冷たい水で顔を洗うと気分がすっきりしてきた。だが、顔を上げた瞬間、仙道は眉間にしわを寄せる。
校門から正面玄関にひっきりなしに生徒が登校してくる、普段通りの光景だが、その中に玲とサッカー部の島が並んで歩いてくるのが目に飛び込んできた。楽しそうに会話をしている。

まさか……そういうことなのか? いつの間に? その後の授業、そんなことをぼんやり考えてしまう。何も確かめたわけではない。勝手に想像しているだけだ。素知らぬふりして玲の友達にでも聞けばいい。だがなぜか出来ない。

いつもは寝てしまう午後の授業も、机に肘をつきボーっとしていると、6限目がはじまろうとするころ、不意に声を掛けられた。おもむろに顔をあげると、玲本人が目の前に立っていた。
「どうしたの? ぼんやりして」と玲は笑っている。
キミのことを考えていた――

「テニス部誰もいなくって、悪いんだけど、英語の教科書貸してもらえるかな」
「次、英語?」
「そう」
「先生休みで自習だよ」
オレも次サボるから付き合ってよ、と有無を言わさぬ強引さで仙道は玲を連れ出した。


屋上のフェンスに並んで寄りかかって座る。いい天気で、日があたるとポカポカして絶好の日和だ。他愛のない話をするが、仙道が聞きたいのは今朝のこと。思い切って切り出した。

「今朝、見かけたよ。あのサッカー部の先輩と一緒だっただろ」
「うん、駅で偶然会ったんだよね」
「付き合い始めたのかと思った」
「なんでそうなるの、違うよ。それよりさあ、暖かくて眠くなってくる……」
隣で玲は大きくあくびをした。

ものすごくホッとする自分に、仙道は改めて自分の気持ちを自覚した。どうやら本当にモタモタしている場合じゃないらしい。誰かのモノになってからでは遅い。そんなのダメだ―― 半ば勢いで仙道は決意した。

「玲ちゃん」と緊張の面持ちで呼び掛けるが、反応がない。あれっと覗き込むと、玲はウトウトしており、今にも頭がガクッと倒れそうにしていた。その可愛らしさに仙道は思わず笑みをもらす。

「肩貸そーか」とトントンと仙道が自分の肩をたたいた。
「だいじょう……ぶ。もうすぐ時間だし……」と途切れ途切れに何とか玲は答える。

「頭、揺れてるぜ」
「うん…へーき……」と言いながらも、今にも意識を飛ばしてしまいそう。そんな玲を優しく見つめながら仙道は思った。オレって重症だったんだな、と。今すぐ抱きしめたい衝動に駆られる。
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