仙道 前半戦

□conte 14
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その日の帰り、いつものテニス部女子たちの輪の中に玲はいなかった。何気なさを装いつつ仙道が尋ねると、用事があるからと終わるなりものすごい勢いで帰っていったとのこと。

「部活中も上の空でちょっとおかしかったんだよね。何かあったのかな」
「今朝、サッカー部の島さんと一緒に学校来たの見たぜ。まさか用事ってそれ関係?」と越野が少しトーンを落とせば、「ああ、それ、ただ駅で会ったからだってさ」と仙道が答えた。

仙道の気持ちを知っているからこそ、越野は遠回しに探りをいれたのに……あっさり解説する仙道にムッとするとともに、驚いた。

「何でおまえが知ってんだよ。いつ聞いた?」と突っ込めば、仙道は困ったような笑みを浮かべた。こういうことに関して越野はするどい。

「もしかしてお前が原因か?」
「……たぶん」
「は? どういうこと?」と小夜子が首を傾げた。
「ん、好きだって言ったから、かな」

皆は顔を見合わせる。あれ、思ったほど驚かないんだね、バレてた?と仙道は苦笑した。
仙道が玲のことを気に入っていたのは、いつも一緒にいれば自然とわかっていたけれど、こうも前触れもなく行動するとは思っていなかった。

「まったく……驚くほどの速攻だな。で、どうしたんだよ」
こいつ、ちょっと前まで弱気な発言もしていたくせにと越野が詰め寄る。

「逃げられた」
「は?」
「部活行かなくちゃって逃げられた。しかも今も避けられたってことだよなあ」といつものように眉尻を下げた。

「仙道から告られて、逃げる女の子って玲ちゃんぐらいだよな。笑える」
「ショックだなー。オレ、自分から告白したの初めてなのに」
「自慢にしか聞こえねえ。おまえも今日はずっとおかしかったよな。朝から嫉妬してたんだろ。あ、それで焦って告ったのか」
「モタモタするなって言ったのは、越野だろ?」




数日後。着替えを済ませ、ロッカーを閉めた玲が盛大に溜息をついたのをきっかけに、小夜子が呆れたように声を掛けた。
「玲、溜息デッカすぎ」
「幸せ逃げるよ?」と誰かが言う。
「でも仙道からは逃げられないと思うけどね」とついに地雷に触れた。

玲は驚き振り返る。皆の視線が自分に注がれている。知っていたんだ──

「ごめん、黙ってて」
どうしたらいいのか、どうしたいのか考えてた、と玲は正直に打ち明けた。

「考えるより行動しそうな玲が珍しいね」
「そりゃ、相手が仙道だからじゃない?」
「ああ、あの通りだからねえ」とそれぞれ自分の感想を口にする。
「あのペースに乗っかっちゃえ」
「のんびりなくせに、すごい奇襲しかけてきたもんだよね」

好き放題言いながらも、仙道に魅かれつつある玲に気づいているので、そっと玲の背中を押す。出来ればうまくいって欲しい。



翌日、朝から溜息をつく仙道に、越野は同じセリフを言うことになる。

「幸せにも逃げられるぜ」
「それ言う? なんか悲しくなるな」
「いい加減うぜえ。らしくねーんだよ。おまえはいつもマイペースでのん気なヤロウなんだよ」
「そうだよなー」

仙道は玲に会いにいこうと決心した。
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