仙道 前半戦

□conte 15
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この距離でそんな爽やかな笑顔を見せるなんてズルい、と玲は思う。こんな近くで自分を見つめないでほしい。気まずかったはずが、いつの間にか仙道のペースに巻き込まれている自分に戸惑いつつ、 心臓が勝手にドキドキするのもわかる。

「……好き……なのかな」
気付くと、そう口にしていた。

「えっ……」
自分からした質問のくせに、その返答に仙道の理解が追い付かなかったようだ。言った本人の玲も驚愕の表情。

「ちがっ……いや、なりかけ?って言うか、何て言うか、自分でよくわからないんだけど、まだ発展途上とでも言うか……」
言い繕うほどドツボにハマっていく。玲ちゃんにはかなわないなあと仙道はニッコリした。

「『なりかけ』って、オレ、期待してもいい?」
「……たぶん」
仙道は顔を起こし、すぐ横で玲に向き直った。

「努力するよ」
「バスケ以外でも努力できるの?」
「ん、玲ちゃんが好きだから」
ストレートに答える仙道に、玲はホントかなーと微笑んだ。

「じゃ、さっそく努力しよ」と仙道が独り言のように言ったと思ったら、手首を掴まれ、軽く引き寄せられた。

「そうやっていつも笑っててよ。オレの隣で」

目の前の近い距離のまま、仙道は説得するように話し続ける。

「そしたらオレ頑張れそう。玲ちゃんが必要なんだ」

低音でささやかれるそれは、ダイレクトに玲の頭に響き、思考を鈍らせる。そして仙道はさらに距離を縮め、玲の唇を見つめた。

「そばにいて欲しい──」

近づいてくる仙道を茫然と見つめていたが、重なろうとする瞬間、ハッとして少し顔をそらす……が、仙道はそれを追うように玲の唇をとらえ、そっと口づけた。

仙道が好きかどうか、そんなことを考える間もなく流されていく。自分の唇に暖かいものが重なっている。驚くほど優しい感触。玲は自然と目を閉じ、仙道のキスを受け入れていた。

そして頭の後ろに大きな手がまわりそっと支えられる。その心地よさにクラクラする。だが、その手がさらにグッと自分を引き寄せ、触れるだけのキスから深く入ろうとしてきたので、玲は思わず掴まれていない方の手で仙道の胸を押しかえした。

「ちょっ……と!」

玲は乱れた呼吸を正しながら、仙道から離れようとする。

「いきなり努力しすぎだから!」

えー残念、と仙道は眉をより下げて笑った。
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