仙道 前半戦

□conte 18
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危ないっ!と聞こえたときにはもう遅かった。後ろから飛んできたサッカーボールが、玲のこめかみ付近に直撃した。ガーンと視界が大きくぶれて、膝からバランスを崩す。サッカー部員が慌てて駆け寄ってきた。
耳鳴りがして目が回った。棍棒で殴られたような衝撃は、今だ、ぐわんぐわんと頭に残る。

「芹沢さんっ! 大丈夫!?」

座り込んでしまった玲のもとに一番に駆けつけたのはキャプテンの島。「すみませんっ」とおそらくボールを蹴った張本人であろう声が耳に入る。痛むこめかみを押さえながら、玲はその本人に向かって、少し手をあげ制した。

「どうしよ……ホントすみません」

こういうことは、やってしまった側の方が得てして動揺するものだ。

「いえ、大丈夫…でもちょっと待っ……」

少し目を閉じて自分の意識をはっきりさせようとするが、その間も彼はずっと謝っていて、むしろ申し訳なくなるほどだ。

「大丈夫ですから…そんなに……」と言って立ち上がろうとしたが、起き上がることが出来なかった。衝撃が足にきていたようだ。立とうとしても足腰が全然いう事を聞かなくて、手が空を切った。
あ、ヤバイかも……そう思ったとき、脇にすっと手が入り、膝を抱えられ体がフワッと浮いた。痛む頭の中で驚きが広がる。顔をあげると、島の横顔が見えた。

「保健室に行こう」

島が玲を抱き上げ歩き出した。

「え、え…あの……」
回らない頭で今の状況を理解しようとする。 「だって 立てないだろう?」
島はそのままズンズンと校舎のほうへ歩いていくではないか。なされるがままだった。

保健室には先客がひとりいたようだ。玲をベッドに下ろして、島はテキパキと校医に事の次第を報告する。
軽い脳震盪だからしばらく安静にしてなさいとのことだった。その間に先客は湿布をもらって出て行った。

島はベッド脇のパイプ椅子に座ると、「申し訳ない。サッカー部のキャプテンとして謝ります」と深く頭をさげた。

「いえ、私もよけられないなんて……。だからそんなに謝らないでください」
「まだ頭ふらふらする?」
「だいぶ収まってきました」
良かったと島は息をつく。

「びっくりしたよ。芹沢さん、立ちあがれないからさ」
「すみません、ご迷惑かけて」
「迷惑なんて。悪いのはこっちだから」
「でも 島さんのせいじゃないのに……ごめんなさい」
 
それを聞いて、島はフッとせつなげな表情をした。

「ごめんなさい、か」

そのセリフ、前にも芹沢さんから聞いたよね、と風ではためく白いカーテンを見ながら苦笑いをする。
「それでも粘ってたけど……ダメだったか」と自嘲的に笑いながら、前髪をかきあげた。

「呼んでこようか? 仙道くん」
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