仙道 前半戦
□conte 21
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年も明けた、3日。
バスケ部は翌日から始動なので、いつもの面々で新年会をすることになった。そういう時は仙道の部屋に集まるのが定番だ。玲たちにも声をかけたが、午後から初練だという。相変わらず玲もテニス優先なんだなと皆思う。
だいたい、このふたりはお互い部活が忙しくて、ゆっくり一緒の時間を過ごすことなんてあるのだろうか。正月は仙道もさすがに実家に帰っていたし、玲も父親が赴任先から戻ってきて家族水入らずだそうだし。
「玲ちゃんと初詣とか行かないのか?」
「オレ、昨日こっち戻ってきたんだぜ? 今年まだ玲に会ってねえよ」
買ってきたものを広げながら、こちらも相変わらずのんきだ。正月のせいか、皆が家からいろいろな食べ物を持ち込んでおり、小さなテーブルに溢れんばかり。
「それに八幡宮とか、めちゃくちゃ混んでるだけだろ」
「それよりふたりでゆっくりしたいってか?」
まあ、そうだけど……仙道は植草の持ってきた太巻きに旨いとかぶりつく。
「言っとくけど、玲、ひとりでこの部屋来たことないよ」
マジかよ!? と皆、少し面くらった。それに母親が不在のときに、玲の家に上がったこともないという。
「いちおう、そこら辺はけじめというか、な」
「な、じゃねーよ。おまえの口から『けじめ』とは……」
越野が複雑な顔を隠そうともしない。
「じゃ、玲ちゃんとは今のとこチュー止まり?」
具体的な質問を、意外にも植草がズバッと口にした。さすがダークホース。食べることに集中していた福田も、チラッと仙道をのぞき見るではないか。仙道はハハっと笑ってごまかした。だが、それは肯定とばかりに話は続いていく。
「仙道、手ぇ早そうに見えっけど、元来のんきだからな」
「っていうより、意外と慎重派?」
「仙道に『慎重』って言葉は似合わねー」と皆はゲラゲラ笑うから、「似合わなくても、慎重になってるんだよなあ」と仙道は呟いた。
もちろん、玲に触れたい、という気持ちはある。健康な男子高校生だ。だが、それは玲もそう思ってくれた時でなければ、意味をなさないということもわかっているつもりだ。
耐えれるかな、オレ──
そんな仙道を見て、福田がボソッと口にした。
「大事にしてんだな」
そんなこと近くで見ていればわかるけれど、改めて確認したようなものだ。あの、バスケ以外ではマイペースでぼんやりな仙道が、玲のことになると思慮深い一面を見せる。
「でも、慎重なのはいいけどさ、どうやってそれ見極めんの?」
またまたダークホース植草が核心をついた。
「それって?」
「タイミングっつーの?」
食う? と差し出されたのは、串カツ。
「さあ、わかんねー」
「わかんねーってそこはおまえらしいな」
越野も串にかぶりつきながら続けた。
「そういうのって自然にとか言うけどよ、バスケしかしてないオレらにそんなことわかるかっつーの。女の子の気持ちとか? 駆け引きとか?」
うんうんと皆が頷いた。だが想像力はたくましいらしい。そこで玲ちゃんがエプロンつけて料理作ってくれてさ、その後──だとか、雨に濡れてシャワー入って、仙道の服借りるってどうよ? Tシャツだけとか──などと勝手なことを言いだした。
「人の彼女で、変な妄想するなよ」
「その相手はおまえだって。オレらシミュレーションしてやってんだよ。ほら、イメージトレーニングが何たらって田岡先生もよく言うじゃねーか」
「先生の名前出すなよ……なんか気持ちが萎える……」