仙道 前半戦
□conte 22
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何の変わりもない土曜日だった。いつもの土曜。練習が終わり体育館を覗くと、まだバスケ部はやっていた。これもいつもと変わりない。だが、仙道がいないことに玲は気付いた。
ゴール下で魚住ともつれて肩を強打し、病院に行ったと部員のひとりが教えてくれた。念のためだからと彼は言い添えてくれたけれど心配でたまらない。
ケガに気を付けろといつも言ってくれる仙道。そんな彼が病院へ行くなんて。
しかし、電話をすれば、仙道はのんきな声で電話に出た。そのまま送ってもらい、もう帰宅したとのこと。肩はたいしたことはないけれど、まだ痛んで何もできないという。何も食べてないと言う。
「何か……元気そうね」
慌てて仙道の家に行くと、彼は明らかにくつろぎモード。
「そんなことないよ。さっきまですっげえ痛くってさ」
「今は?」
「ちょっと、痛いかなあ」
はあーと玲は息をつく。たいしたことなくて良かったという安堵と共に、やられた……という溜息。またもや仙道ペースにハメられた。
「さすがに明日は無理だけど、骨や筋に異常ないから大丈夫だって」
とはいえ、大きなケガでなく本当に良かった。その思いは伝わったようで、ありがとうと彼は目を細めた。
食べたものを片づけると、仙道はベッドにバタっと倒れた。一瞬、軽いうめき声をあげる。さすがに不用意に触れると痛いようだ。
「大丈夫?」
玲が仙道に何か掛けようと近寄ると、腕をつかまれ、仙道の上に倒れ込んでしまった。焦った玲は慌てて起き上がろうとしても……
「前にもこんなことあったよな。貧血おこしたんだっけ」と仙道はいたずらっぽく言って、玲にからみつく。
「なっ、ふざけないで!」
「何もしないから」
それでも玲は逃げようとし、その度に押さえつけられ、ふりほどけない。仙道はお構いなしに玲を抱きしめる。その力に勝てるわけないが、息苦しいほどのドキドキに耐えきれない。
「あんまり暴れるなよ。オレ、ケガ人だぜ」
「どこがっ」
けれど、逃げるはやめた。肩を気遣ったのもあるが、少しばかりの抵抗は無駄だとも思ったから。
「ホントに何もしない?」
「ん」
目の前には、目を閉じて眠りそうな仙道。
睫毛が長い。暖かい。仙道の匂いがする――
あまりの心地よさに、玲も目を閉じてみた。これじゃあ仙道の思う壺だと思いながらも、その腕の中の安心感にだんだん意識が遠のいてくる。心臓は相変わらずドキドキ小刻みに鼓動しているのに、頭はフワフワしてくる。その不思議な感覚に流された。