仙道 前半戦

□conte 24
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4月になり、2年に進級した。
あの日以来、ふたりの時は彰と呼ぶようになったが、春休み中もお互い練習が忙しく、そうそうゆっくり過ごすことはできない。だが合間をぬってわずかな時間を共有する。

週末の練習が午後からの日は、天気が良ければ仙道は釣りにいくのだが、暖かくなってきた最近は玲もそれに付きあう。
一緒にいたいから。それに防波堤で仙道にもたれて座っているのは心地いい。広い海を眼前に、ふたりだけって感じがしてけっこう好きだ。

「玲って、意外と本よく読むよな」

釣りをする仙道の隣で、たいてい本を片手にくつろいでいる。

「そう? だっておもしろいよ」
「オレは活字読むのはめんどくさー」
「ああ、彰はそんな感じね。まあ、わかるけど読み始めるとおもしろいし、いろんな世界のことを感じられるよ。それがいい」

玲が今読んでいるのは、とあるニューヨークの料理人の成功哲学を綴ったもの。

「で、思うんだけど、将来はいろんな人の話を聞く仕事をしたいなーと。大きく出るとジャーナリスト的なこと」
「それが夢?」
そんな感じかな、と玲は本から目を離した。

「そして、彰を取材するとかどう? プレイヤーとしての仙道彰」
「またまた大きく出たね。オレのほうがハードル高くねえか?」
じゃ、頑張ってと玲に笑顔を向けられ、仙道はふうーと大きく息をついた。

「そういうところがかなわねえよな。なんかさ、オレってけっこう玲の手のひらの上で踊らされてる感じがする」

それがいいんだけどね、と仙道は身をかがめ、玲に手をのばした。顎をクイッと持ち上げチュっとキスを落とす。軽いキスかと思いきや、再び重ねてきた仙道はなかなか玲を離してくれない。肩を押し返すと、仙道はニッと笑いながら前に向きなおった。

「そういう彰だって! 自分のペースに私を巻き込んでおもしろがってる」
「悪くないだろ?」
「もう、ノせられない」
「まあ、そういう一筋縄じゃいかないとこが玲だけどね。ベッドではわりと従順なのになあ」

従順……玲の顔はパッと赤くなった。その恥ずかしそうにはにかむ様子が仙道はたまらなくかわいいと思う。

「思考が追いついてないだけ!」
「アハハ、体が素直に反応しちゃうって?」

仙道はおもしろがる一方。玲は反論するのをやめた。落とした本を拾ってまたページをめくり始めると、頭上から仙道の優しい声が届いた。

「玲、好きだよ」

だからノせられないって言ってるのに……と思いつつも、また仙道にもたれて頭をちょこんと彼に寄せた。
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