仙道 前半戦

□conte 25
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「玲せんぱーい」

部室で1年生に呼び止められた思ったら、見ましたよーとキラキラした目で話しかけられた。どうやら仙道と一緒のところを目撃されたらしい。

「しょっちゅう一緒にいるよ。玲を探してる時、あのデカい男、目印にしてるくらいだもん」
髪型も目立つしね、と小夜子がふざけて言う。

「もう1年の間でも仙道は有名なの?」
「そうですよー。カッコイイって噂すごいです」
「バスケ部を見にいく子がいっぱいいるらしいですよ」
「いいなあ、あの仙道先輩が彼氏なんて」

きゃあきゃあと盛り上がっていくのが、かわいらしく微笑ましい。こんな話を越野が聞いたら怒り出しそうだ。


そうだ!とひとりの1年生が思い出したように口を開いた。
「うちのクラスのバスケ部の男子に、玲先輩のことすっごい聞かれました」

あ、相田くんでしょ? 私も聞かれたと他の部員たちも口々に言う。

「スリーサイズまで聞いてきそうな勢いでしたよ」
「何それ、ストーカー?」
「いえいえ、変わってますけど、面白くていい子ですよ。仙道先輩を崇拝してるみたいです」
「大阪弁だから目立つよね。きっと近いうちに先輩たちもわかると思います」

確かに、翌日にはその謎がとけることとなる──


日曜の練習試合の準備を1年生に引き継ぎしていると、後ろからポンッと頭の上に大きな手が降ってきた。皆の視線が上にあがり、驚きの表情に変わる。

「何してんの?」

振り向けば、予想にたがわぬ人がいた。仙道先輩だぁと顔を見合わせて、どうしたらいいかわからないようだ。そんな後輩たちをかわいいなと思いながら、玲も仙道を見上げた。

「テニス部の1年生? いいね、初々しくて」なんて話しかけられて、1年生の緊張がほぐれてきたらしい。明日、練習試合なんです、と仙道に話す。玲先輩は第三試合です、とも。

「へえ、それって何時ごろ? うーん、休憩のタイミング次第だな」
「いいよ、こっちのことなんて。それよりちゃんと自分の練習して」と玲は釘さした。
「えー、玲のスコート姿見てえんだけど」

1年生たちから おおっとどよめきが起こるから玲は慌てた。

「玲先輩、試合じゃなくても着てあげればいいじゃないですかー」
「そんなコスプレみたいなこと出来るかっ!」と玲が言えば、仙道は「あ、そっか。そうだよなあ」と妙に納得した様子。まったく始末に負えない。

そこに、仙道さーん、と特徴あるアクセントの声が聞こえてきた。

「あ、相田くんじゃない?」
「彦一のこと知ってる?」
「あ、はい。同じクラスなんです。大阪弁でいつも元気ですよね、彼」
それを聞いて、玲は昨日の会話を思い出した。

「越野さんが探してますーってあれ? 沢井さんやないか」

彦一は自分と同じクラスの女の子が仙道と仲良く話しているのに驚き見回して、隣に玲がいることに気づいた。

「玲サン……ほ、本物や。要チェックやーーー!!」
泡を吹きそうな勢いで慌てまくる。
「あ……いや、ワイ勝手に名前で! わ、すんません!」

ちょっと相田くん落ち着いて、と同級生になだめられ彦一はひと呼吸おいた。

「彦一、大丈夫か?」
「いや、その、わいが尊敬する仙道さんの彼女さんだから、今一番の要チェック人物だったんですわ」

しゅんとして大人しくなってしまった彦一だったが「要チェックってなに?」と
玲に問われるやいなや、データ集めが趣味でとさっそくいろいろ質問してくるではないか。

──明日は練習試合で、玲さんは陵南の『お蝶夫人』っと、例のノートに記入し、それを仙道が覗き込んで言った。

「この『お蝶夫人』って何?」
「昔の少女漫画に出てくるキャラで、主人公のライバルの華麗なテニスプレイヤーのあだ名ですわ。わい、歳はなれた姉ちゃんがいるから」
「へえ」
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