仙道 前半戦

□conte 26
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夏のIH予選神奈川大会、決勝リーグ最終日。陵南をくだし、湘北高校が全国初出場を決めた。
表彰式も終わり、選手たちが出てきた。陵南のメンバー、そして一番最後に仙道も。こちらに気付き、緩やかに微笑む。それを見た玲は、ガクッと膝から倒れそうになり、駆け寄った仙道に慌てて腕を支えられた。

「あ、はは…ホっとして……腰ぬけちゃったみたい」
「なんで、緊張してたのか」
「見てるだけってしんどい、自分がやってる方がいいよ……そう思わない?」

それは言えてるなと仙道は玲をしっかり立たせた。そんなふたりの親密な様子に、周囲の視線が自然と集まる。
玲はふと、仙道の手にベスト5のメダルがあることに気づいた。仙道個人はそれに選ばれても、陵南は全国大会には行けない。こんな矛盾はつらいだけだと思う。そんな玲の視線に気づいたのか、仙道もメダルに目を落として言った。

「これあげるよ」

渡されたメダルは暖かい。仙道がさまざまな感情とともに、握りしめていたからに違いない。そんなせつない温もりを感じた。つと見上げると、仙道の顔がわずかに歪んだ。気が緩んだのだろうか、向けられた眼差しが微かに揺れたような気がして、玲は慌てる。
メンバーが泣いて悔しさを表しても、ひとり感情を押し殺した仙道を玲は守りたいと思った。周囲に仙道の内面を悟らせてはいけない。仙道はいつもの『仙道』でいなければ──
メダルを持った手を、そのまま仙道の首に回し、ぐいっと引き寄せると抱き締めた。



その不意打ちに、そして彼女らしからぬ行動に仙道はなされるがままだったが、離れるときに彼女と目が合い、その必死さに釘付けになった。ほんの数秒だろう、ふたりは至近距離で見つめ合っていたが、フッと仙道の頬が緩む。玲が何の意図もなく、こんなことをするわけがないと思った。

オレのため、か──

今度は仙道が玲を引き寄せた。そして映画のワンシーンのようなキスに、周囲の空気が変わる。その場にいた者は思わず見入ってしまっていた。ハッと我に返った越野が慌てる。

「ちょ、ちょっ仙道! 玲ちゃん!?」

その声にまわりも我に返った。

「あーーー!? センドー!!」桜木が騒げば「おおーー! すげえ!」と清田が続く。
さすが仙道と神はなぜか納得し、三井と宮城はうらやましげな様子を隠さない。オレたち勝ったのに、何でうらやましいんだろうなと木暮の冷静な突っ込みが入り、牧も呟いた。
「まったく、やってくれるな」
そして、チッと流川の舌打ちが響いた。


「ってことで、先に行ってますね」と仙道は顔だけを向けて言った。まったく……と越野が溜息をつくが、振り返った彼の顔を見て何だか安心した。いつもの飄々とした仙道だ。

「玲ちゃんは仙道のプライドを守った」と福田がぼそっと言った。
「空気変わったもんな。いつもの仙道ペースに戻ったというか」植草もつぶやく。
「大胆すぎんだよ、ったく」越野は仙道と玲の後ろ姿を優しく見送った。
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