仙道 前半戦

□conte 28
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IHに行けなかった陵南バスケ部にとって、この夏休みはとても長く感じる。暑さも余計に感じる。それでもお盆以外はほぼ毎日練習だ。心機一転、仙道をキャプテンに据え、いちからチーム作りを始めていた。休憩の合図とともに、バスケ部の面々は涼もうといっせいに外に出た。なんせ体育館はサウナのよう。

「彦一くん、ちょっと」

そこへ、テニス部の1年生の女の子が小走りにやってきて、彦一をつかまえて何やら話しているが、チラッと座っている仙道の方を見た。と思ったら、今度は彦一が慌てて仙道の方へやってくるではないか。

「た、大変や、仙道さん。今、玲さんが他の学校の男に呼び出されてるらしいんやけど、どないしましょ」とわたわたと報告してきた。それをさきほどの女の子たちが不安そうに見つめているのが、仙道の目に映る。立ち上がり、彼女たちに「ありがとな」と言い、指さされた方に向かって歩き出した。



裏門を出たところに、他校の制服を着た男子高校生2人と玲はいた。ジャケットにネクタイの制服。海南大附属高の男子テニス部だという。もちろん、玲を呼んだのは、そのうちの一人が練習試合のときに玲に一目惚れしたからであって、良ければ付き合って欲しいというものであった。

話を聞きつつも、断るタイミングを計っていると、海南生の視線がふと後ろに流れる。同時に頭の上から「玲」とよく知った声がした。

「仙道……!?」

すぐ横にニッコリ笑った仙道がきていた。そして、そのニコリとしたまま「すみません、玲はオレの彼女なんで」と言うやいなや、ひょいと軽々と肩に担ぎ上げられた。

「ちょ、ちょっと、仙道! 降ろしてよ、ねえってば」

玲は驚いて、じたばた必死に逃れようとするが、仙道に抑え込まれて手も足もでない。
「と、いうことで」と言うと、驚いてポカーンとしている海南生をしり目に、そのまま仙道は歩き出した。

「ちょっと、あれ見て」
体育館前にいた越野たちや小夜子が、戻ってきた仙道と、その肩にかつぎあげられ、降ろせーと騒いでいる玲に目を丸くする。
「何だ、あれ?」とあきれる越野。小夜子たちはお腹を抱えて大笑いだ。「拉致だ、誘拐だ」と植草は言い「人さらいだ」と福田がつぶやいた。

そんな皆の前を「すぐ戻るから」と仙道は素通りし、そのまま体育館裏へ。そして、皆から見えないところまで行くと、下に降ろされ、やっと玲は地面に足をつけることが出来た。だが、間髪入れずに両サイドに手をつかれ、体育館の壁と仙道とにはさまれてしまう。

「うっ……」
「玲、邪魔ってこうやってするんだよ」と言ってニコッと笑う。そして玲の顎をスッと持ち上げ、すかさず唇を重ねた。数秒間のキス。

「まさかヤキモチ妬いた、とか言うわけ?」
「他の男にさらわれそうだったから」
「さらったのは彰の方でしょうが……」

あ、ホントだ、と仙道は笑ってまた顔を近づようとするが、玲は屈むようにして仙道の腕からすり抜ける。

「なんで逃げるんだよ」

腕を捕まれ、引き寄せられた。乱れた髪を愛おしげにそっと撫で、上から優しく見つめてくる仙道。

「せっかく奪い返してきたんだから、もう少しいいだろ?」
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