三井長編

□conte 05
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退院後の土曜、本当に三井は来てくれた。母は出る時間を少し遅らせ、三井を出迎えて挨拶したらしい。
男前でビックリしちゃった。ちゃんと教えといてよ〜とハイテンションだった。かと思えば、昨夜は明らかにピリピリしていて、話しかけられる雰囲気ではなかった。

ここ毎日の桜輔の送迎とリハビリ通いで、自分のリズムを乱され疲れているのだろう。
そう、確かに今までなかったことが急に義務になるのは、慣れるまでかなりの負担だ。だから三井に甘えず、時々は自分が行こう紫帆は思った。




「キっつ……」

体育館わきのコンクリートに体を投げ出して、三井は荒い呼吸を繰り返す。つい、現役のバスケ部員に混じって夢中になってしまった。

あれからもバスケを続け、努力して再び得たスタミナも、今の生活の役には立っているが維持するのは難しい。目を閉じて空を仰ぎ、早い鼓動が収まるのを待つ。

(復帰直後みてーだな……)

バスケ部復帰後、自分のシュートを取り戻すのもだが、何より40分間走りきる体力に欠けていたことが思い出される。
いちど失ったものを取り戻す、いちど立ち止まってしまってからまた走り出すのは、走り続ける以上のエネルギーが必要だ。
そのエネルギーの源が、バスケへの情熱だったのだが。自分の場合は未練とも言えるかなと、ふと昔のことを思い出していた。



「ちゃんと水分摂らないとダメですよ?」

気だるげに目を開けると、スポーツドリンクを差し出す紫帆が立っていた。

「おう、いいのか? サンキュ、遠慮なくいただくよ」
「そうしてください」


少し前に紫帆は体育館に着いていた。松葉杖ついた状態で桜輔は何をしているのだろうと覗いてみると、体育館の片隅で椅子に座り、ダンベルで腕の筋トレをしながら皆の練習を見ていた。
見るのも勉強だとは思うが、これはこれで拷問のようだなと思う。やりたくてしょうがないだろう。悔しくてしょうがないだろう。

ふと練習に目を向けると三井がいた。3対3で攻守を繰り返す中に混じっている。
もっと動け、そこスクリーン! 足を止めるなと檄を飛ばしながら自分も激しく動く。そしてわずかな隙をついて彼の全身から放たれたシュート。

確かに寒風の吹く2月だが、その寒さからくるものとは違うゾワッとするような鳥肌がたつのを紫帆は感じた。今、目の前でへばって座り込んでいるこの男の姿に──
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