三井長編
□conte 07
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3月になったとはいえ早朝の風は真冬の冷たさを持っている。
平日の習慣のせいか、いつも通りの時間に目の覚めた三井は、実家の周りを軽くランニングをしてから湘北高校に向かった。途中、桜輔をひろうため、少しばかり道をそれる。
時間にして15分程度のロスだからたいした苦ではないのに、そこの姉は気にして帰りは時々迎えにきたりする。
無駄にCo2排出して地球に優しくねーだろと言ったら、土日に高校生とバスケするサラリーマンの方がエコじゃないと返された。おもしろい女だ。
朝からの練習の時はたいてい母親が荷物を持って挨拶に出てくるのに、今朝はその姉が送りに出てきた。
「この時間に起きてるなんて珍しいな」
「いつもは出てこないだけ」
「姉貴、部屋から出てきてねーじゃん」
「……ウルサイ」
「それより、何かいつもと違わねーか?」と三井は視線をよこした。
今度は何が変? 服? メイク? と紫帆が怪訝な顔をすると、言った本人すらやっぱわかんねえという風に首をかしげ、まあいいやと再びエンジンをかけた。
「よろしくお願いします……今日は家を空けられないんで、帰りもお願いします」
「おお。 いつもいいって言ってるじゃねーか。じゃあな」
桜輔が言うには昨日今日と庭の手入れを業者に頼んでるから、誰か家にいなくちゃならないらしい。だから早く起きてんだなと腑に落ちた。
そう、庭とはいえ、そこからリビングは丸見え。いつものように昼近くににノコノコ起きてきたら恥ずかしいわよと紫帆は母に起こされた。
朝はまだ冷えるなと小走りで家に入る。玄関の鏡にうつった自分を見て── 三井が自分の何に違和感を持ったのかわかった。というか、三井が気づいたことに驚かされる。
昨日、仕事帰りに髪を切ったことを自分でも忘れていたのだから。
不意をつかれたような、出し抜かれたような気分になり、なぜかしてやられたと思った。