三井長編

□conte 10
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「ねえ、紫帆、このあと何か予定あるの?」

葉山の御用邸近くにあるイタリアン。前々から行きたかったのだが、なかなか予約がとれず、やっと今日実現した。
ゆっくり女友達とランチ中にもかかわらず、なにやら時間を気にしてソワソワと落ち着かない紫帆に友人が不思議そうに聞いてきた。

「なになに? 男だったりして〜」
「う〜ん、男っちゃあ男? 桜輔を迎えに行かなくちゃな〜っと」
「コーチがしてくれてるとか言ってなかったっけ」
「そうなんだけど、疲れてるのに悪いでしょ」
「もう、あんたは義理堅いんだから」

弟みたいに人の好意に甘えなよーとか、長女のサガだね、と小学校からずっと一緒だった友人たちは好きなことを言ってくれる。


少し前にはこの友人たちと飲んでいたときに、偶然にも桜木に出会った。
店構えはお世辞にもおしゃれとはいえないが、味が良く、凝った串を出してくれると評判の焼き鳥屋で。何でもそこは彼の友達の家がやっているお店らしい。

友人たちが彼の風貌に驚いていたのが笑えた。自分だって最初は怖そうだと思った。
でもそれは桜木の特有の人懐こさと明るさですぐに払拭。ふたつ年下ということで、最後は「カワイイ」と言われて照れているさまが紫帆もかわいいと思った。


「ね、ね、そのコーチも若いの?」
「その人は同い年だって」
「花道くんが言ってた『ミッチー』って人だよね?」
「やっぱ背高いんだろうな。カッコイイ?」

ふと昨日の三井が思い浮かぶ。頭のすぐ横にくる吊革に手首をひっかけ、自分を見下ろして笑いかけてくる三井。あのネイビーのネクタイがよく似合っていた。

「どうなんだろ。でもお母さんは褒めてたかな」
「男を見慣れてる紫帆のママが言うんだからかっこいいんじゃない?」

その会話が耳に入ったらしく、食後のデザートを運んできてくれた店の人が目をパチクリさせていた。まあ、確かに紳士服が主な商品だからお客の大半は男性。
友人の面白半分の言い回しに、ちょっと納得しかけながら紫帆はコーヒーにミルクを入れた。

「ごめん。これ飲んだらやっぱり私行くね」
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