三井長編

□conte 11
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コーヒーを飲み、区切りのいいところで紫帆は席をたった。本来ならここからが長いはずなのだが……

弟のために? 疲れてるのに悪いから? 義理堅いから? とにかく迎えにいくためにいったん家に戻る。玄関で車の鍵を手にし、最後に鏡の前でリップを引き直した。

「よしっ」


家のリビングのカレンダーには4時半と汚い字で書きこまれていた。これは桜輔がケガをしてから送迎のために予定を書き込ませているもので、3月中はびっしり毎日埋め尽くされている。
が、4月からは「甘えてられねえし、これもリハビリだから」と学校も病院も自分で行くと言い出した。

これからはこうやって湘北高校に来ることもないかな……そんなことを思いながら裏門から入り、体育館わきの駐車場に停車した。車から降りて顔をあげると、校舎の丸い大きな時計が見える。

3時45分。思ったよりかなり早く着いた。
もう少しおしゃべりを楽しんでから出てきても良かったかもしれない。自分は何をあんなに急いでたんだろう。

ちょうどその時、「紫帆さーーーん」と呼ばれた。振り向くと、体育館の扉わきで首にタオルをかけた桜木がブンブン手を振っていた。そんな桜木に驚いたのはすぐ近くにいた三井と宮城。

「はあ? 紫帆さんだと!?」
「いつのまに!?」

紫帆が近づいていくと、何かごたついている模様。

「お疲れさまです……? 花道くん、この間はどうも」と言うと、「花道くん!?」「この間ってなんだ!?」とよけいに揉め始めた。
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