三井長編
□conte 12
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午後の光が徐々に薄らぎ、最後の日差しが体育館の中を、無音のうちにこっそり移ろっていった。そんな中、桜木の得意げな声と愉快そうな笑いが洩れ聞こえてくる。
引き揚げながら、紫帆と桜木はあの焼き鳥屋のことや、今日もその友人たちと会ってきたことなどをいろいろ話し込んでいた。
紫帆が桜輔のスポーツバッグを持ち上げたところ、桜木もそれに手を伸ばし、2人の動作が重なった。
「大丈夫だよ?」
「イヤイヤ、紫帆さんにそんなことさせられねーっす」
「花道くんも疲れてんだから」
「底なしの体力の男、桜木! 平気っす」
「でも」
「いや、オレが」
まるで初々しいカップルのような押し問答だ。たまりかねたように「桜木!」と三井の声が突き刺さるように飛んできた。
「持ってやる必要はねえ」
ふたりの間でバッグが宙ぶらりんのまま止まる。何だ?というように桜木が顔をあげた。
「もう中林に自分のことは自分でやらせろ」
「ああ、おうのすけに、か?」
「だから置いとけ」
三井の言うことはもっともであり、三井も近頃は必要最低限しか手を貸さないようにしていた。しかし、今の桜木を呼び止めた声には必要以上のイラつきが表れていた、と宮城は感じた。
その前から宮城は気が付いていた。親し気に話す紫帆と桜木に、何か気に入らないものを見咎めでもするように三井の視線がいっていたことに。
(あーあ、三井サン、オレの予想どーり?)
声にしてないその言葉が聞こえてしまったかのようなタイミングで三井が振り向いた。
「んだよ……帰るぞ。お疲れ」