三井長編

□conte 13
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春独特の生温かい風が、桜の匂いを織りこみ彷徨う4月中旬の日曜。桜輔が体育館に現れなかったことが、三井は気になっていた。

本人に電話してみようかと何度も思ったが、何となくためらわれる。仲間に聞くと、激しい動きはできないものの、リハビリの経過も悪くないらしい。
そう、膝の回復は順調のようなのだが……

自分の昔を思い出す。
故障は時間をかければ治る部類のものだった。だけど、気持ちはいやおうなく焦る。そこで無理をしてしまったことも悪循環を招いてしまったが、何よりも……

自分が何もできない間の仲間の成長に追い詰められた―――



数日後の夜、珍しく堀田から電話が入った。何の話かと思えば、桜輔のことだった。
その日の午後、頼まれていた植木を届けに中林家に行ったら、ちょうど息子が帰ってきたと。

「どう考えてもまだ学校だろって時間でよ。母親も驚いてて、ちょっと揉めてたぞ? またすぐ出てっちゃったけどな」

母親を突き飛ばしそうな勢いだった。そして玄関にいた堀田と目を合わそうともしなかった。いちど会っただけだが、三井のことや、あの山王戦のことやら、無邪気に話しかけてきたあの時の子と雰囲気が違うと堀田は直感した。

「ありがとよ、徳男。おまえにしちゃあ、気の利いた電話だ」


しばらく携帯を握り締めていた三井だが、思いたち、着信履歴から電話をかけた。だが、むなしく呼び出し音が鳴るだけで相手の出る気配がない。

「クソッ」

どうなってるのかと考えているつもりでも、さっきからずっと同じ発想に立ち続けている。ずっと自分が懸念していたことに行き着くだけ。桜輔がバスケから離れていってしまうのではないかと。

彼自身で解決していくより他にないことだ。それはわかっているが、ただ手をこまねいているというのは三井の性分には合わなかった。
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