三井長編

□conte 14
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約束通り、8時ごろに三井は現れた。
飲みにいくかと移動した先で座るなり、「何かあったら相談しろって言ったよな」と詰められる。

「まだ起こったばっかりで、よくわかんないよ……」
「じゃ、いつから部活出てねーんだ?」

母が言うには新学期が始まったころ。その辺りから理由をつけて休みがちになり、三井がそれを知った週末はついに無断欠席。
家にいても部屋にこもっているか、どこかへ出て行ってしまい顔を合わそうとしない。そしてもうひとつ、紫帆は気付いていた。

「少し前に彼女と別れたみたい」
「タイミング悪りぃな。 まったく姉弟そろって……」

ちょうど注文したビールが運ばれてきた。このシチュエーションは何なんだと思いながら、とりあえずお疲れと軽くグラスを合わせた。冷たい液体が喉を浸みるように通過していく。

「ん? そろって、何?」
「振られてんのか、ってこと」
「は!?」
「前にそんなこと言ってなかったか? 車の中で」

確かに桜輔が病院帰りに調子に乗ってしゃべっていた……かもしれないが、そんなことを覚えられていたことが恨めしい。

「私は合意のもとに別れたんですっ!」
「何で?」
「そんなのどーでもいいでしょ!」

そして── ためらいはあったが、この機会を逃したらもう聞けない。

「そういう三井さんはどうなのよ……彼女とか……」

自分で聞いておいて、答えが怖いと思う間もなく「アホ」と言われた。オレの週末の過ごし方を見りゃわかるだろ、と。

そして三井はグイッとビールをあおった。緩められたネクタイと少し開かれたワイシャツの襟の上で、ゴクゴクとひと飲みごとに上下する喉仏を眺めながら、紫帆も自分の頬が緩んでしまうのを隠すためにグラスに口をつけた。
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