三井長編
□conte 15
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自分の居場所はねえと思っちまうんだ──
まんま当時の自分のことだ。そしてそれを紫帆に言い当てられた。
一瞬流れたおさまりの悪い空気に、彼女は慌てて訂正したが……なぜだろう、三井は話してもいいと思った。わざわざ自分から話すなんてとんでもない? だが今は聞いてほしいとさえ思った。
「バスケが出来るようにしてあげてください」と医者に頭を下げた彼女。
おっとり育ったお嬢様かと思いきや、言葉を交わすたびにおもしろいヤツだと思った。人のことに突っ込んでくるくせに、かといってその按排(あんばい)をちゃんとわきまえている。
そんな紫帆に自分のことに踏み込んでほしいという思いを抱くようになった。弱みを握られたくないような……でも自分の弱いところまで知ってほしいなんておかしな話だ。
「オレは……逃げた」
三井の口から言葉がぽつりとこぼれ落ちた。
「それから2年近く、ボールに触ることすらなかった……」
「……2年」
プライベートな時間を割いてまでバスケに傾倒している三井に、そんなことがあったなんて想像できない。追い詰められて、逃げたというのか。
「どうしてたの……? バスケしないでいられたの?」
その問いに三井は少し歪んだ、乾いた笑みを浮かべた。
「居場所を求めてとでも言うんだろうな、ガラ悪い奴らとツルんでよ、今から思えば最悪な高校時代だな」
「あっ…堀田造園のヤンキー息子……」
「は? なんだそりゃ?」
「あの植木屋の堀田さん、高校のとき相当ワルかったって」
そんな堀田と親しかったという三井。その時は流してしまったけれど、紫帆の頭の中で途切れていたものがつながった。なるほど、そういうことか。