三井長編

□conte 16
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玄関のチャイム音が遠くで聞こえる── その音で目が覚めた。完全なる二日酔い。どうやって帰ったのか記憶が曖昧だ。

また気持ち悪さを覚えそのまま動けずにいると、今度は母が弟の部屋をノックし呼んでいる声が聞こえてきた。
何か説得しているようだが、何を言っているのかまでわからない。そもそも頭に入ってこない。
けれど喉が渇いてしょうがないので、しぶしぶ起き上がり部屋を出て階段を下りようとすると、また母が上がってきたところに遭遇した。

「紫帆!? 何てかっこうで! 早く部屋に戻って!」

激しく慌てる母の後ろに驚くべき人物が見え、反射的に身を翻し、ドアを閉めた。今の動きで余計に具合が悪くなりそうだ。
そのままドアにもたれていると、「中林、オレだ。話がある」と三井の声がした。
息を詰めて、背後でおこっている事象に神経を研ぎ澄ましていると、ややあってドアが開けられたのがわかった。

「入っていいか?」
そして母に、「しばらく2人にしてもらっていいですか?」と断りを入れてからドアが閉じられた。


今ごろになって、三井が明日行くと言っていたことが思い出される。そうだった……
そもそも、昨夜、三井と飲むことになったのも、その発端は桜輔。途中からおかしなスイッチが入ってしまい飲み過ぎた。その時の自分の言動が気がかりだが、考えてもしょうがない。

とにかく、またこの状態での遭遇は避けるべく、紫帆は重たい体に鞭打って、急いでシャワーを浴び着替えた。




「もう、恥ずかしいったらないわっ」

リビングに行くと、母に冷たい視線を投げかけられた。

「あれ、お母さん、仕事は?」
「桜輔が気になって午後からにしたの。あなたは使い物にならなそうだったから。まったく」

話を逸らせたくてそう聞いたのに、嫌味を言われた。何か食べるかと聞かれたが、胃が受け付けそうにない。ただただミネラルウォーターを口にした。

「それにしてもビックリしたわ〜、三井さんがいらした時は。あなたも驚いたでしょ?」
「うん、まあ」

実は知ってたなんて言えない。それに、昨夜、こんなになるまで一緒に飲んでいたなんて母が知ったら、余計に恥ずかしいと騒がれそうだ。

「桜輔のこと心配して来てくれたのよ。いい青年よね〜。きっとまっすぐ育ってきたのね」

半開きの口を閉じることを忘れたかのように、あっけにとられて母を見た。お酒が勢いづく前の三井との会話はしっかり覚えている。あの本人も思い出したくないらしい「最悪」と言っていた過去。
誰だ、母のことを男を見る目があるかのように言ったのは。まったく当てにならない。

「もう1時間近くたつわよね。お茶ぐらい持っていった方がいいかしら」
「2人にしてくれって言われたんだから、いいんじゃない? 邪魔になるよ」
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