三井長編

□conte 17
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燦々と振りまくような春の陽光がリビングに差し込んでいる。二日酔いであろう彼女には眩しすぎるようで、その明るさに目をすがめつつ、奥のソファに座るよう促された。

「三井さんのおかげね。今日は来てくださってありがとうございます」

母親にそう言われ、ぎこちなく笑みを返す。

「ここ2、3週間、話を聞こうとも話そうともしなかったのよ? 三井さん、どんなマジックを使ったのかしら」
「いや……オレは自分の経験を話しただけです。オレも大きなケガをしたことがあるので」

それこそ、マジックのように跡形もなく消してしまえればいいと思った昔の話。昨夜にしろ、今日にしろ、今ごろになって自ら話すことになるとは思わなかった。

そしてそれを話すことしか出来ないが、それで何かが伝わるのだとしたら悪くはないと三井は思う。ただ、礼を言われるとどうにもきまりが悪い。褒められた話じゃねえんだけどなと、密かに失笑した。

桜輔が何かがないと呼ぶ声がする。母親が席をはずした。すると紫帆が少し近くに座り直してきた。

「昨日話してくれたこと、桜輔にも話したの?」
「へえ、それは覚えてんだ」
「うっ、ちゃんと覚えてるわよっ…その辺りはね……」

波が引くように声が小さくなる。三井は笑みをこらえきれず、口元をほころばせた。

桜輔には紫帆に話したことだけにとどまらず、すべてを話した。自分の言葉で。
どうしてバスケ部に戻ることになったか。戻れたのか。そして自分の後悔のすべて。取り返しのつかないすべてのこと。

やはりあの事件のことは衝撃だったらしい。絶句していた。しばし長いのか短いのかわからない沈黙が落ちた。

「宮城さんや桜木さんは…それを……」
「ああ、一番スゲーのはあいつらだな」

これは懺悔だ。
自分は激しく後悔した。今だってその思いはこうして燻っている。だから桜輔にはそんなことになって欲しくない。
自分のように間違った方向に流されるとは思ってはいないが、今バスケを辞めたら絶対悔いが残り、この先すべてがそういうことの連続になると三井は説いた。

生々しい真実を交えた三井の言葉は、どこか違う世界に紛れ込んでしまったかのように投げやりになっていた桜輔を引き戻した。

「皆、心配してるぞ。仲間を大事にしろ」

さらりとそう告げた三井に、桜輔は無言で奥歯を噛みしめていた。
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