三井長編
□conte 20
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結局、桜輔は試合に出ることなく、湘北の勝利で練習試合は終わった。釈然としない紫帆の隣で、三井は「仙道に自慢してやろー」と満足げだ。
「あいつ、1コ下のくせに、いつも余裕綽々な態度でよ」
「自信からくる余裕なんでしょ。きっと三井さんよりよっぽど大人なんだよ」
「女はみんな、あいつの肩を持ちやがって」
だってカッコイイんだもん、という紫帆と苦々しいやり取りをしていると、「三井くん」と田岡に声をかけられた。三井もかしこまって挨拶する。
「まったくキミのコーチのおかげで相変わらずやっかいな湘北だ。だが明日からまたしごいて、予選ではうちが勝たせてもらうぞ」
「田岡監督も変わってないっすね。こっちもまだ秘密兵器がいますんで、うちが全国に行かせてもらいます」
秘密兵器、その言葉にピクリと反応し冷や汗を流す田岡に対し、その田岡ともこんなに落ち着いて話ができるなんて、オレも大人になったもんだぜと三井は思っていた。
桜木だったら、それこそ相変わらずの勢いで噛みついていただろう。
田岡がそんなしたり顔の三井に近づき、こっそり聞いてきた。
「恋人かね?」
「は……?」
その視線は紫帆に注がれている。三井は口元に残っていたニヤけた笑いの余韻をすぐに引っ込めて、慌てて否定した。
「これからってとこか」
「いや、そういうわけでは……」と今度は歯切れの悪い三井に「ハハ、まあ、湘北もキミも頑張りたまえ」と田岡は笑いかけた。
その目尻に皺寄せる穏やかな眼差しにこそ、指導者の指導者たる一端が垣間見えたような気がした。