牧 中編

□シネマティックストーリー 06
1ページ/2ページ


全体を白とダークブラウンにまとめられたアジアンテイストの室内は、適度に照明が落とされ、エキゾチックな雰囲気とリラックスしたムードが漂っていた。

海藻とジンジャー入りのフットバスに足をつけながら、カウンセリングを受ける。
その日の体調、アレルギーの有無などの体質、組み合わせるメニューから、BGMの好みまで。
「部屋に合わせて、ガムランはどうだ?」と牧が提案すると、セラピストの方はすぐにわかったようだった。もうひとりに指示をする。

「ガムランって何?」
「東南アジアの民族音楽だ」
「へえー、良く知ってるね」
「サーフィンしに何度かバリ島に行ったからな」

涼しげな優しい音色が流れてきた。
青銅製楽器の澄んだ響きが耳触りよい。
よりリゾート感が増し、インテリアにぴったりだった。

最後にマッサージのオイルを選ぶことになり、麻矢は自分の好きなアロマオイルを選んだ。その香りだけでテンションがあがる。

「これでお願いします」
「よく知ってるな。ま、それもそうか。オレはまったくわからん」
「だよね」

ならばお試しになってみますか?と言ってくださったので、実際に見せてもらって匂いの好みでチョイスした。牧が甘めの香りのオイルを選んだことが、麻矢は意外だった。

そしてトリートメントに入る。
タオルを敷かれた施術台の上にうつ伏せになるのだが、目の前にすると思ったよりも2台の距離が近い。
麻矢は今までフェイシャルエステは受けたことがあるが、少し胸元を開いてデコルテまでがせいぜいだった。
が、本日のメニューは全身。
雰囲気に流されて思考から抜け落ちていたが、これはかなりきわどいのではないか――
一足先にうつ伏せになった牧も、ローブの紐を解くように言われてハッとしたようだ。

「すまない、言っておくべきだった。カップル用のプランだが、あいにく彼女とは恋人同士というわけではないんだ」

セラピストはにっこり笑って、「少々お待ちください」と部屋の隅からパーテーションを持ち出してくれた。
胸の高さぐらいまでだろうか。
バンブー素材のダークトーンのおしゃれな作りで、周囲に馴染み圧迫感はない。
あらゆるゲストの要望に備え、対応する接客に関心しながら、麻矢も台にあがった。

大判のタオルをかけてから、バスローブを抜き取られ背中をさらすと、まずは自然海塩のボディスクラブで全身をくまなくマッサージ。

「『まな板の鯉』状態だな。それとも塩もみされているようだと言うか……」
「塩もみって、キャベツやキュウリじゃないんだから」

セラピストの方たちもクスクスと笑う。

「角質を取り除いて磨き上げているところです」
「牧くん、ひと肌むけて白くなるかもよ?」
「余計なことを言うな」
「そうですね、焼けていらっしゃいますね。サーフィンをなさるというお話でしたから納得です」と牧の担当者が頷く。

落ち着いていらして、きっとベテランの方。
こちらの会話の邪魔をせず、だが適度にコミュニケーションを図ってくれるのはさすがだ。
特にペアで来ているプライベート感から、施術の加減を問うだけで、向こうから不必要に話しかけてくることはしない。だが、思わず聞かずにはいられなかったのだろう。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ