牧 中編

□シネマティックストーリー 09
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常に確信をもって発している自身の声が、ためらいがちに揺れるのを牧は感じていた。
彼女とここに来たら、自分は打ち明けるだろう。告げずにはいられない。
それはわかっていたのだが、どうにも体の奥のざわめきはおさまらない。

街灯のほのかな光が彼女の上品な顔立ちを際立たせている。
気付けば麻矢を自分の胸に引き寄せていた。

「そしてまた上野のことが気になり始めた。そこはまるで高校生のようだが、だからと言ってノスタルジックな気持ちで言ってるんじゃない。27歳の女性として……惹かれた。でなければこうして抱きしめたりしない」
「ま…きくん……」
「上野は……どうなんだ?」

胸の中の麻矢は戸惑いはあれど、拒む様子はない。いや、それどころか――
かたく身構えていた肩から力が抜けたかと思えば、そっと背に彼女の腕がまわされたのがわかった。

「オレと向き合ってくれると……返事だと思っていいか?」

小さな頭がはっきりと頷く。麻矢の口元に柔らかな笑みが浮かぶのが見えた。
きつく抱きしめ、体を密着させると、麻矢が息をするたびにその感触が伝わり、牧の鼓動が早くなる。それはきっと聞こえてしまうだろう。落ち着かない。


牧は麻矢の髪に頬寄せた。
少し上向いた彼女の、かすかに開かれた唇に視線が釘付けになる。自分の意識と関わりなく吸い寄せられた。

初めは軽く触れただけだったが、何度か繰り返すうちにあっという間に抑えのきかない状態に――
「麻矢……」と名を口にし、もういちどかすめるようなキスをしつつ、手を背中から腰へと滑らせると、今度は押し付けるように唇に舌を割り込ませた。絡めて、その感触と親密さを深める行為を楽しむ。

麻矢の指が牧の背中をなぞり、うなじに直に触れたとき、興奮の波が体中に広がった。
このまま麻矢を家に連れ帰り、情熱的に愛し合いたい――
そんな感情がわきあがり、だがさすがにそれは、と何とか気持ちを押しやって、牧はしぶしぶキスを中断したが、しばらくは未練がましく唇で麻矢の唇をそっとなぞるのをやめられなかった。


「明日……一緒に東京に戻らないか?」と麻矢の髪を梳きながらポツリと牧は問いかけた。
「ん、昼間は用事入れちゃって……」
「オレも夕方は海にいくつもりだ。じゃ、そのあとどうだ?」
「うん、わかった。牧くんと戻ることにする」

よし、と牧はようやく体を離した。
決めたあとの行動は早い。麻矢の手を引くと、もと来た道を戻る。車に乗り込む前にもういちど学校を振り返った。
10年たって、こういうことになろうとは―― 不思議なものだが、これが縁なのかもしれない。
牧は穏やかに微笑んだ。

車内で「ねえ、牧くん」と麻矢が口を開いた。すでにクスクスと笑い気味の彼女。
「ひとつ言っておくとね、実は――」と言葉が続く。なんだろうか?

「私、誕生日過ぎてるから28歳なんだよね。もしかしてちょっと年上?」

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