牧 中編

□シネマティックストーリー 10
2ページ/2ページ


何杯目だろうか。
牧が麻矢のグラスにワインをつぎ足すと、ボトルは空になった。
ラグに座りこみ、反対の手はソファーに肘をついていたが、時折その手が麻矢の髪を撫でるように触れる。

「そういえば、再会したときもワインだったな」

そう言って牧がグラスを傾けると、たくましい喉があらわになった。目の前には黒いTシャツに覆われた厚い胸に、がっしりと張り出した肩。吸い寄せられそうになり、麻矢はどうにも落ち着かない。

「ん? どうした?」
「ううん、何でもない。あ、でも、そろそろ教えて……?」
「何をだ?」
「牧くんが何て呼ばれてたか」

「ああ、それか」と仕方がないなというような笑みを漏らすと、麻矢の頬に指を滑らせ、顎をつまんで自分の顔に向ける。
至近距離で食い入るように見つめられた。麻矢が後ずさってしまうように真っ直ぐな目で。
それから急に牧の顔が真剣になった。

「教えてやる――」

そう聞こえた次の瞬間には、麻矢の唇は牧の唇に捕らえられていた。
隙間なく覆われ、押し当てられるその感触はひどく優しい。何度か繰り返され、やがて舌が入り込んでくる。麻矢の口内は牧で埋め尽くされた。

呼吸が早くなって、意識できるのは絡められる舌と、それによって身体の奥にもたらされる甘い疼きだけだ。
こんなキスが行きつく先はただひとつ。

「行こう――」

牧は立ち上がりながら、麻矢の手をとった。
すでに力が抜けている麻矢を抱えるようにベッドに移動すると、再び激しいキス。
互いの身体の区別がつかないほど縺れあって、自分の服を脱ぐように麻矢の服を脱がせていく。
少しずつ露わになる麻矢を、牧は見下ろした。

「本当に白い……な。きれいだ」

そんなじっと見つめられたら恥ずかしい。
だが、好きな男にならば、結局のところ何もかも許してしまうのだから無駄な抵抗かもしれない。


牧の愛撫はとても優しく細やかだった。
彼の性格が感じられ、その律儀さはベッドの中でも変わらない。麻矢はその流れに身を委ねた。
指や舌が触れては離れるそのたびに、めまいに似た官能を肌に残され、身体が反応してしまう。

試合での剥き出しの闘志とは裏腹に、いつもは冷静で穏やかな牧。そんな牧の秘めたる激しさに応えて、麻矢も彼以上に彼を愛する。

「上野……」
「んっ……牧く…ん、名前…で……麻矢って。お願い……」
「麻矢」

燃え盛ったその声は、合わさる麻矢の唇から身体の中へと流れ込む。目の前の浅黒く日焼けした胸は、呼吸のたびに静かに上下した。
ふたりの身体は完全にひとつの動きに溶け込み、それはリズムに合わせてしなやかにうねる。大きな波に乗るように。

牧を深く受け入れ、熱くなった息遣いを感じれば、身体よりも心が昂る。彼に抱かれ、今まで感じたことがないあたたかな安堵を覚えた。
次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ