牧 中編

□シネマティックストーリー 12
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「ま、数ヶ月前まで海南でバスケやってたヤツですからね、あれくらい当たり前っすよ」
「一番の敗因は体力かな」という宮益に、「若さですよ」と突っ込むのは神だ。

ここは牧の叔父の家の庭。
体育館での親睦バスケ会が終わり、夜まで少しばかり時間が空いた。高砂は彼女を実家に連れていくことになっていると帰っていったが、車を置かせてもらってくるという牧に、「昔みたいにお邪魔しようぜ」と3人がついてきた次第。
実家に帰ろうとしていた麻矢も、半ば強制的に連れてこられた。

「10分10分の前後半だってのに、さすがにキツかった」
「――さん、家族にいいとこ見せるって張り切ってたのに、ものの数分で自ら交代してましたね」
「みんな月曜から普通に仕事だからね、無理は出来ないよ」
「あ、神さん、異動になりそうだって言ってたけど、どうなんすか?」
「この9月はないらしいけど、近いうちにあると思う」

「おいおい、みんなずいぶん大人になったもんだな」と叔父さんが目を細めた。
本当に笑うと牧に似ている。目尻に寄る深い皺は、温和さを強調するようだ。

「あの頃はバスケ一辺倒の少年だったのになあ。おかげで、私は今でもキミたちの対戦相手の名前を覚えているよ?」

次第に話の方向は高校時代やかつてのライバルたちの話へ。時々、宮益が気を遣って解説してくれる。

「そういえば、このあいだ魚住の店に行ってきたが、相変わらずヤツはデカかった」
「そりゃ、牧さん、縮んでたら驚きますよ」なんて神が言うから、清田と宮益は笑いを堪え切れない。
それをものともせず、「旨かったよな」と牧は麻矢に話をふった。

「へえ、一緒に行ったんだ?」
「うん、最高に美味しかったよ」

その時、清田が「オレ、行ったことないんすよね、ボス猿の店」とポツリと呟いた。それは麻矢の耳にしっかり届き――
「あ、教えてもらってもいい? 皆それぞれあだ名つけられてたんだってね。牧くんは何だったの?」

一瞬、沈黙した。
「あとでな。それより今、何時だ?」
ごまかそうとする牧の切り替えしには少し無理があったようだ。だが、動揺がわかりやすく彼らに伝わり、一種の箝口令となったらしい。清田でさえ、事態を察し片方の眉がピクリと反応した。とはいえ、麻矢だって、ここまで隠されたら知りたい。

「この間もそう言ってそのままにされた」
「そうだったか?」

えもいわれぬ空気が流れる。

「ダンプカー……じゃなかったでしたっけ? ほら、牧さんのパワープレイがさ」
神が機転をきかせて言った。いっそそれらしいことを言っておいたほうが得策であると判断した。

だが、そこで「それは違うな」と声があがるではないか。皆がギクッとして振り返った。

「大人になって忘れちゃったのかい? 『じい』だろ?」
「叔父さん……」
「『じい』って言われたことに、紳一、ショック受けてたじゃないか」

牧の落胆のため息が静かに響く。
「ぼ…僕なんて『宇宙人』って言われたし、ほんっと失礼な奴だったよな」
慌ててとりなす宮益の努力は報われない。
「そうかい? 私はセンスあると思うがな」と愉快そうに笑う叔父に、こんなところが牧とそっくりだと神はこっそり思った。


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2018/3/01 牧・中編(完)
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