牧 中編

□シネマティック 番外編1
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週末の夜。
牧用のお箸や茶碗など日用品の買い物を楽しんでから、麻矢のマンションにふたりで帰ってきた。
彼がこの部屋に泊まるのは2度目になる。
麻矢がバスルームから出ると、先に浴びた牧が物珍しそうに棚に並べられた化粧品の壜やケースの数々を眺めていた。

「そっちの鏡の前にもいっぱいあったが、こんなにどうするんだ?」
「どうするって、使うものは使うけど、あとはコレクションみたいなものかな。これ、素敵でしょ? 見てるだけでテンションあがる!」

特に香水は見た目で選んだといっても過言ではない。クラシカルで凝ったボトルのもの、三角錐に近い直線的な形のもの、琉球ガラスをつかった贅沢な海の色の壜。

「そういうものか?」
「パッケージやデザインって売上にかなり大きく影響するんだから」

牧が比較的シンプルなボトルに目に留めた。

「これは? あの時の……」
「そう、エステの時のアロマのボディオイル。お風呂あがりの保湿用なの」

夏といえども、エアコンや強い日差しに日々さらされる肌の保湿は欠かせない。
麻矢はそのボトルを手に取ると、手のひらに広げ擦り合わせてから、自身の腕にマッサージするように塗り始めた。
肌が温まっているうちにつけると伸びがよく広げやすい。足は下から上にリンパの流れに沿って押し上げるように。ほのかな香りが漂い、それは牧にも忍び寄る──
ふいに手からボトルが抜き取られた。

「手伝おう」
「え、大丈夫……」
「届かないところもあるだろう?」
「それはそうだけど」

「背中とか」と聞こえたかと思えば、後ろ向きにされ、着ていたTシャツを脱がされる。パジャマ替わりのそれの下は何もつけていない。
慌ててTシャツを奪い返すと、前を隠すように覆えば、すでに胸の鼓動が早くなっているのがわかった。
牧の大きな手が肩にかかる──

「ん? 凝ってないか?」
「今週、デスクワークが多かったから」
「ちょうどいい、ほぐしてやろう」

そのままゆっくりと揉みほぐしながら、徐々に下におりてくる。オイルで滑らかさを増した手は、吸い付くよう。
やわらかな圧力で腰まわりを撫でられ、思わず身を捩った。くすぐったい。

「動くな」
「だって……」
「じゃ、そこに横になれ」
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