牧 中編

□シネマティック Rival 05
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冷蔵庫にネギと卵はあった。冷凍のご飯もある。検索したレシピは最後にしらすを散らすとのことだが、さすがになかったのでかつお節を添えることにした。
昨夜は床に寝たので少し身体が痛い。日課のストレッチをしなかったせいもあるだろう。鍋がグツグツいいだした頃、麻矢が目を覚ました。

「気分はどうだ?」
火を弱めながら牧は尋ねた。
「おはよ、だいぶ楽になったと思う」
「熱は?」
枕元にいき、そっと額や耳の下に触れると、まだ若干熱い。いつも以上に肌も白く、頼りなく儚げな様子が心配だ。
「おかゆを作ってる。食べられるだけ食べて、早く治せ」
「牧くんが作ってくれたの……?」
「他に誰がいるんだ」

最後に卵を溶き入れ、火を止めた。お湯を注いだフリーズドライの野菜スープと一緒に麻矢のところへ運べば、思いがけないことに感心したように覗き込んでくる。

「自分で食べられるか? いや、オレが食べさせよう」
「え、いいよ」
「病人は言うことを聞け」

甲斐甲斐しいほどに看病をしてやりたい。彼女に早く元気になって欲しかった。
冷めるように小さい器にうつしたおかゆをひとすくい、身体を起こした麻矢の口元に寄せれば、麻矢は一瞬ためらう。

「まだ熱そう」
「そうか」と母親が子供のためにしてやるように、フーフーと息を吹きかけた。差し出せば、麻矢はおずおずと口にした。さらにもうひと口、ふた口。
「大丈夫か」
「うん、美味しい」
「じゃ、なんで笑ってるんだ?」
「だって、牧くんが可愛くて」

こっちは真剣にやっているのだが。病気でなければ、その口を塞いで思い知らせてやりたいところ。
「ほら、いいから食え」
「ん、でも、ありがとう、あとは自分で食べる」

笑う余裕があるくらい回復しているなら喜ばしい。ゆっくりだが麻矢は自分で食べ始めた。これで薬を飲んで寝れば治るだろう。

「ごめんね、せっかくのお休みなのに。来週、天気良かったらどっかいかない?」
「来週か」
「海いく? そうだ、私、お弁当作る」
「悪い、久しぶりに藤真と神と約束があるんだ」
「そっか」

麻矢に少し残念そうにされ、牧はよほどその約束をキャンセルしようかと思った。
「すまない、藤真のオフがそこしかないらしくてな」
おかゆをひとさじ口に運んで、麻矢は微笑んだ。
「謝らないでよ、そっちが先約でしょ? そうじゃなくても藤真くんたちならしょうがない、譲ってあげる。んー、私は……今ものすごく牧くんを独占させてもらってるからそれでいいの。幸せ」

自分の言葉で麻矢は照れているようだった。そんな可愛らしいことを言われたら、抱きしめたくなる。牧は麻矢の左手にそっと手を重ねた。
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